詞の内容は年齢を重ねるごと、少しずつ変化をみせてきたという
「もっと若かった頃は、苦しければ苦しい!と書いていましたけど、30歳を過ぎたあたりから、傷があってもいい、それを乗り越えることでの幸せがあるよね、といった気持ちを書けるようになってきました。特にこのところ、僕のまわりの身近な人たちとの、予期せぬ永遠の別れが続いたりして……深く人生を考えることが多かったですね。
それから恋をしたり、ふられたり……いろいろな思いを詞に託している感じです。書くことはすごく苦しい作業ですけれど、パズルを組み立てていくような感覚というのか、自分の気持ちと言葉のピースとがカチッとはまったときは、本当に気持ちいいです!」
その詞を奏でる、どこかせつなさを帯びた三浦さんならではの声。
「あ、それ宇崎竜童さんと阿木燿子さんに言われたことがあります。『今では少ない哀愁のある声』だと。うれしかったですね。おふたりにはこのアルバムにも『菩提樹』という曲を創っていただきました」
最近「音楽のアルバムは写真みたいだ」と思ったそうです。
「文字どおりフォトアルバムと同じというのか、そのとき、そこで思っていたこと、情景が残される。残すことができる。すごく幸せな職業なんだと初めて気づきました」
子供の頃から音楽が好きで、音楽の道に進むことしか考えられなかった
父親の、俳優・三浦友和さんのビートルズ好きに影響を受け、洋邦さまざまなジャンルの曲を聴いてきた。「日本の歌ではユーミンとか、村下孝蔵さんとか情感のある歌が好き。特に村下さんの『踊り子』という曲の「つまさき立ちの恋」という表現が好きです」
ギターを始め、中学生のとき初めてバンドを組み、仲間と安いスタジオを借りては大きい音を出して練習を繰り返した。10年前、プロとしてバンドデビュー。解散後はソロとして活動を始めたが、メジャーとして浮上するまでには時間がかかった。
「なかなかうまくいかない時期が長くて。焦ったし気持ちがずっと沈んでいたこともあります。でも、最近になってようやく、デビューの頃に父から言われた『継続は力なり』という言葉が、わかるようになりました。10年、重ねてきて、あ、そういうことかと。辛くても、見ていてくれる人は見ていてくれる。ようやく自分の下地のようなものができてきたんだと」
愛用のギターとともに。大スターであるふたりを親に持ったことについて、あえてその気持ちを尋ねてみました
「いろいろ大変な葛藤があっただろうというのは、たぶんまわりの方々のほうが思っていたことではないでしょうか。僕自身は、ヘンな言い方ですが、生まれたときから家にいる親ですし(笑)、フラストレーションとかはまったくなかったんです。あの両親のもとに生まれてきたことを後悔したことは一度もないですし、むしろとても単純にふたりのことを尊敬していますね。
ふたりとも、すごくのびのび育ててくれたと思います。母からは、人としての礼儀作法、あいさつをきちんとするとか、悪いことをしたら謝るとか、そういうことは教えられましたけど、他に特別な教えなどはなかった。音楽の世界に入ってからも特にアドバイスされるとかありません。たぶん(僕が)言われるのがイヤだとわかっているんじゃないでしょうか(笑)」
現在はひとり暮らしをしている三浦さん。
「2か月に1回くらいは実家に帰ります。たまに食べる母の手料理がうれしいですし、特に好きなのは……ひじきの煮物ですかね。父からも何も言われません。ただ僕が自分のラジオ番組で、自分の新曲を初披露したりするとすぐメールが来たりします。本番中なのに(笑)。ええ、ありがたいことに、ずっと親子関係はいいですね」
そう話す表情に、ほっこりした温かな家庭の様子がみてとれます。
「僕、弟(貴大さん・俳優)のことも好きすぎるぐらいです(笑)。弟って小さい頃から兄ちゃんをライバルのように思うんでしょうね、いちいち真似したり向かってくるところが可愛かった。今は互いに大人になりましたが、それぞれの仕事を尊重し合っていますし、一緒に酒を飲んでいても楽しくて仕方ないです」
この夏は『FLOWERS』をひっさげてのアコースティックワンマンライブがスタート。ナチュラルな響きのあるライブにしたいと、アコースティック・ギター、キーボード、パーカッション、そしてヴォーカルと4人編成の形に。
「ともかく、僕の生歌を聴いて欲しいです! 昨年、母のカバーアルバムで僕の声を知ってくださった方々も多いと思うんですけど、ぜひ直接、聴いていただきたいんです」
ライブ会場での「お客様と心が通い合う時間、そんな空気感がたまらなく好きです」という。そしてこう付け加えます。
「沈んでいた時期を経験しているでしょう、ああいう状況に戻りたくはないから頑張る。聴いてくださる人たちがいるのって、本当に幸せなことです。懸命に歌い続けます」
三浦祐太朗/Yutarou Miura
ミュージシャン
1984年、東京都生まれ。2008年、バンドデビュー。2012年よりソロ・デビューし2枚のアルバムをリリース。2017年、母、山口百恵のカバーアルバムで8万枚のセールスを記録。日本レコード大賞・企画賞を受賞した。2018年8月1日、新作アルバム『FLOWERS』を発売。
『FLOWERS』
2018年8月1日発売 2500円(税込み)
ユニバーサル ミュージック(TYCT-60118)
取材・文/水田静子 撮影/寺澤 太郎 ヘアメイク/KEN、YUKA(ともにRIM) スタイリング/越中春貴(RIM) ジャケット5万2920円、パンツ2万4840円/ともにムッシュ ニコル エクストラ(ニコル プレスルーム 電話03-5778-5445)