治る力 現代人は医療や薬に頼りすぎているといわれます。もともと備わっているはずの自然治癒の力、「治る力」を活性化するにはどうしたらよいのでしょうか。専門家にお答えいただきます。
前回の記事はこちらから>> 脳の疲れを癒やし、心を整える“幸せホルモン”セロトニンとオキシトシン
近年、脳内の画像解析技術が進歩し、100種類以上ある脳内物質の働きも解明されつつあります。今回は“癒やしの源”といわれるセロトニンとオキシトシンに焦点を当て、心身に及ぼす効用についてうかがいます。
東邦大学名誉教授・セロトニンDojo主宰 有田秀穂(ありた・ひでほ)先生リズム性の運動がセロトニンの分泌を促す
最初に、ドーパミン、ノルアドレナリンとともに三大脳内物質の1つといわれる、セロトニンの働きからお話ししましょう。
ドーパミンは、過剰に分泌されると度を越した欲望やさまざまな依存症を引き起こすことがあり、怒りのホルモンといわれるノルアドレナリンは、過剰に分泌されると攻撃的になって、自らも他人をも傷つける事態になりかねません。
セロトニンはこれらの暴走を止め、安定した精神状態に導く、大切な役割を担っています。人はストレスを受けると緊張して交感神経が高まり、呼吸や脈拍が速くなりますが、セロトニンは自律神経のバランスを整え、その緊張を解いてくれます。
私たちは睡眠中、副交感神経が優位となっていて、起床時には交感神経に切り替わります。ここでもセロトニンが切り替わりのスイッチに関与し、さわやかな目覚めへと導きます。
ほかにも片頭痛などの痛みを調節する、姿勢筋に緊張を与えて正しい姿勢を維持するなどの働きもみられます。
姿勢筋とは重力に抵抗する筋肉で、眠くなると自然に緊張が緩み、起きると緊張度がアップします。この緊張がしっかり保たれれば若若しく潑剌とした美しい体形になり、その手助けをしてくれるのもセロトニンです。
セロトニンは昼間、活動している間中分泌されていますが、30分ほど太陽の光を浴びることで、目の網膜から入る光の刺激が、脳幹のセロトニンを生成する神経群に伝わって分泌量が増え、その働きを活性化してくれます。
直接太陽を見ると目を傷めますから、窓を開けたり戸外に出て、間接的に浴びる光で十分です。分泌を促すには“リズム性の運動”も大切。
リズミカルに足を運ぶウォーキングや音楽のリズムに乗って行うラジオ体操などが、セロトニンを増やし活性化することが確かめられています。腹式呼吸やよく嚙む行為なども、同じくリズム性の運動といえます。