先輩がたから髙橋さんに贈られた応援プログラム「You’ll be OK」。この曲を選んだ荒川さん、田村さん、本田さんの気持ちを考えるだけでもぐっと来ます。振り付けは盟友の宮本賢二さん。写真/中西裕介/アフロスポーツ髙橋さんへ送るエールからデニス・テン選手への追悼プログラムなど。
静かに熱かったフレンズオンアイス2018
髙橋さんへ送るエールからデニス・テン選手への追悼プログラムなど。静かに熱かったフレンズオンアイス2018。
新SP(ショートプログラム)と新FS(フリースケーティング)を披露するはずだった髙橋さんは、怪我のため、残念ながら滑ることができませんでしたが、今回の公演で心に響くプログラムが幾つもありました。
その1つが「フレンズオンアイス」の創設メンバーである荒川静香さん、田村岳斗さん、本田武史さんによる「You’ll be OK」。直前に起きた髙橋さんの怪我は思いがけない事態だったことと思いますが、プログラムに込められている髙橋さんを心から応援している気持ちが会場の皆さんとも呼応して、とてもハートフルな時間になりました。
最後に髙橋さんがスケート靴でリンクに登場して、挨拶とお詫びをしたときのお三方との絡みは見ていて微笑ましかったですね (笑)。フレンズでの田村さんはお久しぶりでしたが、相変わらず面白かったです!
現役引退後も表現者としてますます進化を遂げているステファン・ランビエールさんと宇野選手の「四季」コラボ。ステファンによる振り付けでの競演は、お互いの持ち味を発揮し、とても見応えがありました。撮影/坂本正行(世界文化社 写真部)今公演で出色の出来だったのは、宇野昌磨選手とステファン・ランビエールさんのコラボだったのではないでしょうか。宇野選手が平昌冬季五輪で銀メダルに輝いたときのSP(ショートプログラム)、ステファンが2006年の世界選手権で優勝した際のFS(フリースケーティング)であるヴィヴァルディの『四季』を披露したのですが、最初に宇野選手が、次にステファンが1人で滑るシーンがあり、そのあと、2人で同じステップ、最後は高速スピンでしめるという演出。
ステファンが当時のゼブラ衣装を着て滑り出てきたときの会場は、割れんばかりの拍手喝采。
静かに青い火花が散るような見事な競演でした。余興のレベルではなく、ステファンを本気にさせる宇野選手はさすが銀メダリスト。このコラボ、ぜひまた企画してほしいです!
宇野選手が魅せてくれた新プログラムも名作になる予感。それについてはまたの機会に書くことにします。
スケーター、観客が一体となり、デニス・テン選手に捧げた祈り
そして、チン・パン&ジャン・トン(通称パン・トン)の「ニュー・シネマ・パラダイス」とシェイ=リーン・ボーンさんの「Near Light by Ólafur Arnalds」を観て、思わず熱くこみ上げてきたのは私だけではないはず……。
7月19日、25歳という若さで突然この世を去ってしまったデニス・テン選手への追悼プログラムに、心を震わされました。
私自身、あまりに理不尽で悲しすぎるこの出来事を受け止めきれておらず、まだ言葉にするのが難しいのですが、黒い衣装を身に纏って、切なさや慟哭をスケーティングで表し、時に天上と対話しているかのようなシェイの舞と、優しさ、悲しみが溢れてくるパン・トンの滑りに、やるせなさ、怒り、恋しさ、そして鎮魂の祈りを乗せ、デニスを想っていました。
その場にいた皆さんが、きっと同じ気持ちだったのではないでしょうか。気品と情熱に包まれたデニスのスケーティング、これから先も忘れることはないと思います。
「フレンズオンアイス」を観ると、いつも出演者たちがお互いを思い合い、リスペクトし合っているのが伝わってきます。今回、心地よさはそのままに、選曲や演出に例年以上の深いさまざまな深い想いが込められているように感じました。
いよいよ間もなく始まる2018/2019のフィギュアスケートシーズン。どのスケーターも怪我やアクシデントに悩まされることなく、フィギュアスケートを愛する私たちに幸せな感動を与えてくれるような素晴らしい演技をひとつでも多く披露できますように。期待しています!
小松庸子/Yoko Komatsu
フリー編集者・ライター
世界文化社在籍時は「家庭画報」読み物&特別テーマ班副編集長としてフィギュアスケート特集などを担当。フリー転身後もフィギュアスケートや将棋、俳優、体操などのジャンルで、人物アプローチの特集を企画、取材している。