「アドバイスをいただくことはもちろん、ひと月、同じ空間にいるだけで吸収できるものがある」
“秀山祭”は伝説の名優・初代吉右衛門が得意とした演目を今の時代へと伝える公演。播磨屋の一員である米吉さんが一年の中で、とても大切にしているひと月です。
米吉「吉右衛門のおじさんや父など先輩がたと、一ヶ月、劇場で一緒に日々を過ごすだけでも勉強になる、9月は僕にとって、とても大切な月なんです」。
新春浅草歌舞伎をはじめ、若手の公演を中心に次々と大役にも抜擢されている米吉さんですが、大先輩と一緒の舞台に立つことには別の学びがあるのでしょうか。
米吉「もちろん大きなお役をいただくことは、できるできないは別にして、役者にとっては嬉しいですよ。でも、若手ばかりの公演だと日を重ねる中で、どこかで崩れてしまうこともあるんです。吉右衛門のおじさんや父など上の先輩がたとご一緒だと、中日をすぎてからでも“それは違うよ”と注意していただけます。それに、先輩がたのお芝居をしっかり拝見できるという意味でも、大先輩と一緒の公演というものは大切なんです。楽屋にいても、モニターから流れてくる台詞回しや間のとり方が、自然と耳に入ってきます。25日間、そういう時間をいただき、感じることができるのだから、ちゃんと身につけていかなければなりませんよね」。
お父様の中村歌六さんは立役。米吉さんは播磨屋で唯一の女方ですが、それは逆に、色々な女方の先輩から教えを受けることができるというアドバンテージでもあります。
米吉「演目やお役によって、中村魁春のおじさま、中村時蔵のおじ、中村雀右衛門のおじさまなど多くの先輩がたに教えていただいています。最近は尾上菊之助のお兄さんとご一緒する機会も増えました。菊之助のお兄さんは女方も立役もなさるので、お相手をさせていただく時に他の立役の先輩とはどこか視点が違うんです。復活上演の演目でお役が掴みきれずにいた時なども細かくアドバイスしてくださいましたし、7月の『御所五郎蔵』での逢州などは、ご自身が演じた経験と対峙する五郎蔵を演じるお立場の両方から教えていただけて、いい経験ができ、ありがたいことでした」。
米吉さんにとって“播磨屋の芸”とはどんなものなのでしょうか?
米吉「歌舞伎には“役者を観に行く”楽しみもあると思いますが、古典の作品では、役になりきり、お客様をお芝居の世界に引き込むことが求められるものも多くあります。それが“播磨屋らしさ”なのでしょうか。9月の秀山祭でも、そんな“播磨屋らしさ”を大事につとめられたら。そしていつか初代のおじさまや吉右衛門のおじさんが得意とされている演目の娘役…『俊寛』の千鳥や『伊賀越道中双六 沼津』のお米、『梶原平三誉石切』の梢などを演らせていただけるようになれたらと思っています」。