旅をするたび、各土地で出合った料理をノートやスケッチブックに書き留めるというレイチェルさん。その記憶と記録は、レイチェルさんの新しいレシピ誕生のための大切な宝物です。「今回の日本への旅でもそうですが、食べたものを写真に撮ったりスケッチしておきます。この蓄積がすぐ新しいレシピに繋がるというわけではなく…来年、もしかしたら5年後とかになって、何かの形に広がっていくんです。新しい体験が自分の中にどんどん貯まっていくことで、新しいものも生まれてくる」
たとえば、今回の最新本に登場する「塩牛とホースラディッシュのマッシュ」(P.80)は学生時代に通ったイーストロンドン地区のベーグル屋さんの「ソルトビーフベーグル」の思い出がベースに。「この店に行くのが本当に楽しみだったし、ビーフの香りも香ばしかった。学生時代のこの素敵な記憶を、メインディッシュでみんなとシェアしたい! そこから考え始めたメニューです」
『レイチェル・クーのキッチンノート おいしい旅レシピ』より「塩牛とホースラディッシュのマッシュ」。学生時代の思い出の味から生まれた一品。ときには“Have visual in my mind”、ご自身の中にあるさまざまなイメージからレシピが生まれることもあります。現在、ご主人とともにスウェーデンで暮らすレイチェルさんの料理心を刺激したのは、その大らかな自然。「森や湖を表現できるような、1皿のデザートを作りたい、と閃いたの。食感と味、いろんな風味を1皿で味わいたい…。その結果が『食べられる森の土』(P.158)ね」
『レイチェル・クーのキッチンノート おいしい旅レシピ』より「食べられる森の土」。チョコレートビスケット、メレンゲ、ミルクチョコレートヨーグルトなどが1皿に盛られたデザート。「日本ではどうかわからないけれど、英国ではテイクアウェイや電子レンジでチンするだけのお料理が多くなっています、若い世代の人たちが忙しいのはわかるけれど、やっぱり“自分で料理をすること”をおろそかにしてはいけないと思うの。お砂糖や塩量も調節できるから、自分の身体のためにもなるでしょう?
私自身、料理好きな母や祖母から“the joy of food & eating”をたくさん教えてもらいました。お料理作りには“pleasure”がいっぱい。それを忘れてほしくない。家族や友人にも悦んでもらえるだけでなく、何より作っている自分が一番楽しいんですもの。とにかく料理を思いっ切りエンジョイして!!」
2度目の来日を果たしたレイチェルさん。2018年9月7日の代官山 蔦屋書店のイベントでは「こけももとラズベリーのマザリーネル」が振る舞われました。マザリ―ネルとは、スウェーデンの小さなタルトのことで、バターたっぷりの生地にアーモンドペーストがぎっしり詰まった伝統的なお菓子です。 ★〔後編〕
憧れのレイチェル・クーさんのレシピを作る! 食べに行く!!>> 好評発売中! 『レイチェル・クーのキッチンノート おいしい旅レシピ』 生まれ育ったロンドン、旅で訪れたトルコやスペイン…。その土地で出合った料理からヒントを受けたレイチェルの素敵なレシピが満載の1冊です。 2,376円(税込) 世界文化社刊
取材・文/露木朋子 撮影/長尾真志 西山航