便秘の陰に潜んでいるがんや腸炎など深刻な病気に要注意
国立病院機構久里浜医療センターでは、消化器内科医で内視鏡部長の水上 健先生が週2回、便秘外来を行っており、全国各地から難治性の頑固な便秘に苦しんでいる人たちが訪れています。
「便秘は女性に多いといわれますが、それは女性ホルモンの変動が腸管運動に強い影響を与えるからです。
しかし、慢性便秘症の有病率をみると、女性ホルモンの影響がなくなる更年期以降も加齢とともに便秘に悩まされる女性は増えていきます」と水上先生は指摘します。
加齢で便秘が増えるのは運動量や食事量など環境の変化が大きくかかわっています。
「影響を受けるのは男性も同じで、男性の便秘は60代から急増し、80歳以上になると男女差はなくなります。定年退職による環境の変化やストレスをきっかけにひどい慢性便秘になる人も少なくありません」。
一方、処方薬の副作用やほかの病気の症状として便秘が生じている場合もあるので注意が必要です。
「40歳以上の人、便秘歴が半年未満の人は念のため消化器内科を受診し、がんや腸の炎症など深刻な病気が隠れていないかどうかを確認することが大切です。
また、処方薬の副作用が便秘の原因として疑われるときは薬を処方してくれた医師に相談しましょう」と水上先生はアドバイスします。
慢性便秘症診療ガイドラインの登場が、便秘治療のターニングポイントに
2017年10月に治療指針となる『慢性便秘症診療ガイドライン』が刊行されたことが、便秘治療の転換点となりました。
診療ガイドラインの作成委員を務めた水上先生は「日本でもようやく下剤を多用する経験的治療から科学的根拠に基づいた世界標準の治療を行えるようになったのです」と評価します。
便秘の定義も変更され、回数や量よりも排便に伴う困難さや残便感などの症状が重視されるようになりました。
「これまで便秘の患者さんを最も苦しめてきたのが“毎日出ないと便秘”という誤解です。すっきり便が出て、おなかが張るなどの不快感がなければ、毎日排便しなくてもいいのです」。
また、病態分類が整理されたことで便秘になりやすい体質と原因を突き止めて対処することが可能になり、頑固な便秘も克服できるようになりました。
便秘になりやすい体質には、(1)ストレスで大腸がけいれんして便回数が減る体質と、(2)腸の形が原因で便がひっかかりやすい体質があります。
こうした体質に加え、直腸や肛門機能の問題が便秘の原因となり、腸管運動異常や腸管形態異常、排出障害を引き起こしているのです(上の図参照)。