メタボを改善し前立腺がんの死亡リスクを下げる
さらに興味深いのは、前立腺がんの悪性度にもテストステロンの量が関係しているという事実です。近年、前立腺がんは高齢化と欧米型の食生活を背景に急増しており、国立がん研究センターの最新がん統計(2013年)によると、男性が罹患するがんのうち胃がん、肺がん、大腸がんに次いで4番目に多いがんとなっています。
「60歳頃から高齢になるにつれ、その罹患率は高まり、ご主人の場合も決して他人事ではありません」と井手先生は注意を促します。
井手先生たちの研究グループでは、前立腺がんを病理組織学的に悪性度が高い群と低い群に分け、血液中のテストステロンの量との関連を調べました。その結果、テストステロンが低い人のほうが悪性度が高いことが明らかになりました(図2参照)。
「悪性度が高いとそれだけ死亡リスクも高まります。メタボになるとテストステロンは低下することがわかっていますが、メタボの男性は悪性度の高い前立腺がんになることも判明しています。将来、前立腺がんで死なないために、今、メタボを改善しておくことが重要です」と井手先生は指摘します。
疫学研究によると、日本にはLOH症候群にかかっている男性が600万人いると推計されており、60代では19%、70代では28%、80代では49%と高齢になるほど罹患率が増えてくるデータもあります。
「しかし、高齢になっても男性にはテストステロンを高められる自己回復力があります。疾患との関係がこれだけ明らかになっている事実を踏まえると、血液検査で自分のテストステロンの量を知り、それに応じた対策に積極的に取り組むことが健康で長生きするための秘訣といえるでしょう」と井手先生は話しています。
テストステロンと前立腺がんの悪性度との関係
Ide H et al.Anticancer Research;28:2487-92,2008日本人を対象とした研究で、前立腺がんを病理組織学的に悪性度の高い群と低い群の2群に分け、血液中のテストステロンの量との関連を調べたところ、テストステロン値が低い人のほうが悪性度が高いことがわかった。
井手久満(いで・ひさみつ)先生
1991年宮崎医科大学医学部卒業。前立腺がん、腎臓がんのロボット手術から男性更年期に対するアンチエイジングまで泌尿器科で取り扱う診療に幅広く対応する。治療法のメリット・デメリットを十分に説明し、患者とともに選択することを心がける。
●獨協医科大学埼玉医療センター埼玉県越谷市南越谷2-1-50
電話:048(965)1111
診療:金曜午前(*) 要予約 要紹介状
●四谷メディカルキューブ東京都千代田区二番町7-7
電話:03(3261)0430
診療:第2金曜午後(*)
(*)井手先生の外来担当日
撮影/八田政玄 材・文/渡辺千鶴 写真提供/PIXTA
「家庭画報」2018年11月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。