私が小学生の頃、父はインドやタイ、ジャワなどに惹かれ、度々かの地を訪れては大きな作品を残してきました。そして旅の土産話とともに、母や私のためにサリーや更紗を買ってきてくれ、母はそれを帯やテーブルセンターにして楽しんでいました。
アジアの神秘を収めた父の作品。約50年も前の父の土産の裂の中でも特に高価そうで、手の込んだ手工芸が施された50㎝四方の古い裂が、手付かずのまま何十年もずっと箪笥の中で眠っていました。当時の父が「昔の王様の衣装だったらしい」と言って求めてきた時代裂です。一体どれほどの時間がこの裂の上を通り過ぎて言ったかと思うと、大いなる浪漫を感じます。
父の土産の「王様の布」から誂えた付け帯と、同じく父がタイで買い求めたブローチを帯留めとしてコーディネート。ビーズを施してある糸はもう老けて、所々ほつれていますが、私はこの「王様の布」を思いきって帯にすることにしました。出入りの呉服店に相談したところ、綴れの帯にお太鼓と前帯にだけパッチワークのようにはめ込ん仕立ててくださいました。
気の遠くなる時間を有する存在感のある帯を、絞りで大きく染め分けた母のぜんまい紬の訪問着に合わせました。
また、帯留めに使ったブローチは、この裂と同じ頃に父がタイで求めたもの。帯と帯留めが互いにエキゾチックな魅力を引き立て合い、一見、地味に見える紬があか抜けた着こなしになりました。