年に数回しか公開されないご本尊の秘仏、初めて寺外へ
2018年10月2日(火)から、東京国立博物館で開催されている特別展『京都 大報恩寺 快慶・定慶のみほとけ』展が、話題を呼んでいます。
「千本釈迦堂」の通称で親しまれている大報恩寺のご本尊で、1年に数回しか公開されない秘仏・釈迦如来坐像が、初めてお寺の外にお出ましになって展示されているのをはじめ、快慶最晩年の作として知られる十大弟子立像(重要文化財)も、寺外で初めて、十体揃って展示されています。
本展の最大の見どころは、この釈迦如来坐像と十大弟子立像が同じ空間で展示されていることです。現在、十大弟子立像は、大報恩寺の本殿ではなく霊宝殿に安置されていますが、本来は本殿にて、ご本尊である釈迦如来坐像のまわりに安置されていたと伝えられています。
それらが今回、この展示会場で、再び邂逅を遂げているのです。広い空間に1体ずつ独立して置かれている展示方法が斬新で、釈迦如来坐像と十大弟子立像の間を縫って、自由に拝観することができます。久しぶりに相まみえた釈迦如来坐像と十大弟子立像が放つエネルギーに満ちた、濃密な空間です。
「このように、仏様が一斉に寺外に出ることは初めてで、極めて稀です。今年は本当に自然災害が多い年。仏様が揃って日本の首都である東京にお出ましになったことは、偶然ではなく必然なのでしょう。復興への祈りの一助となればという思いです」と、菊入諒如住職。
その言葉どおり、スタート前日の内覧会の日は、台風一過、すっきりとした秋晴れでした。
唯一、光背・台座まで完存する、中世期の六観音菩薩像が勢揃い
大報恩寺に伝来する、運慶一門の慶派仏師、肥後定慶(ひごじょうけい)作の六観音菩薩像も、ずらりと勢揃いしています。六観音とは、聖(しょう)観音、千手(せんじゅ)観音、馬頭(ばとう)観音、十一面(じゅういちめん)観音、准胝(じゅんでい)観音、如意輪(にょいりん)観音のこと。
1224年の作で、この時期の六観音菩薩像が6体とも、光背と台座まで揃うのは、これのみという、唯一無二の存在です。
しかも本展では、10月28日(日)までの会期前半は、下の写真のように光背をつけた本来の姿で展示されていますが、10月30日(火)〜12月9日(日)の会期後半は、光背を取り外し、美しい後ろ姿も間近に見ることができるようになり、外した光背も一緒に展示されるそう。通常では見られない貴重なお姿を目にすることができます。
ずらりと並んだ六観音。床や壁に落ちる光背の影の美しさにも注目を。この六観音のうち、聖観音のみ、一般の撮影が許可されています。私もスマートフォンで撮影させていただきました。いざカメラを向けると、どの角度から撮らせていただこうかと、真剣に悩み、ただ拝観するのとは異なる目線で仏像と向き合こととなり、貴重な時間を過ごしました。自分だけの写真を持ち帰ることができるのは、とても有難く、思い出に残りますよね。
スマートフォンのカメラで撮影した聖観音菩薩立像。残念ながら少々ピンボケでした。北野経王堂ゆかりの文化財の優しいお姿も必見です
大報恩寺には、伝来が不明ながら、平安時代前期に遡る千手観音菩薩立像があります。また、足利義満によって建立された仏堂で、現在では失われてしまった北野経王堂ゆかりの名宝も数多く残されています。
先にご紹介した六観音も、かつてはその経王堂にあり、解体時に大報恩寺に移座されました。釈迦如来坐像や十大弟子立像といった慶派の作とは異なる、不遜ながら“かわいい”とすら思えるような、優しく、ときにユーモラスなお姿を間近に見られることもまた、この展覧会の魅力のひとつです。
千手観音菩薩立像 平安時代・10世紀 優しいお顔立ちで、手の一本一本も丸みを帯び、まろやかなお姿。音声ガイドはぜひ利用を! ミュージアムグッズも忘れずに
この展覧会ではとくに、音声ガイドを聞きながら拝観することをおすすめします。たとえば、十大弟子立像は快慶最晩年の作と伝わりますが、快慶自身が手がけたもの、快慶一門が手がけたもの、そして運慶系の工房が手掛がけたものに分けられるそうで、その見分け方などが詳しく解説されています。聞きながら、目の前の実物を見比べて、納得。音声ガイドのモニターに画像も映し出されるので、たっぷりとお勉強した気分になれます。
ミュージアムグッズも、欲しいものがいっぱいです。大報恩寺は、「おかめ伝説」でも有名なお寺。そのおかめをモチーフにした小箱に京都 青木光悦堂の飴(粒いちご)をセットにした「箱入り飴」920円(税込み)が可愛い!
クリアファイル700円(税込み)。携帯ルーペ1300円(税込み)。この秋の京都旅行では、大報恩寺へ!
東京国立博物館でたっぷりと仏像を拝観した後に、実際に大報恩寺に足を運んでみてはいかがでしょうか。1220年、義空(ぎくう)によって開設された同寺の本堂は、応仁の乱をはじめとする災禍を奇跡的にくぐり抜けた、洛中にあまたある古刹のなかでも最古の木造建造物として、国宝に指定されています。
「お寺に仏様がいらっしゃらない展覧会の期間中は、真言八祖像のお軸や狩野山楽(かのうさんらく)の屏風など、非公開の寺宝を公開しています。これもまた貴重な機会なので、ぜひお参りください」と菊入住職。この展覧会をきっかけに、秋の京都を旅するのもまた、一興です。