2016年のNHK木曜時代劇『ちかえもん』に近松門左衛門役で主演するなど、テレビドラマでも活躍。「ただ僕の場合は出方が特殊で、主にテレビ東京とNHKにしか出てないんですよ。僕にもなぜだかわからない(笑)」――近年はアンサンブルキャストにも、ミュージカル系の俳優やダンサーを積極的に起用されていますよね。
「大きな劇場で芝居をつくっていくうちに、段々そうなりましたね。以前は、半ばミュージカルに対するアンチテーゼみたいなものもあったんですけど、『キレイ(~神様と待ち合わせした女~)』(松尾さん作・演出の音楽劇。2000年、2005年、2014~2015年に上演)みたいな作品を再演していくと、どうやったってクオリティを上げる方向性になっていくし、本格的にミュージカルをやってる人たちの芝居を観るにつれ、遊び半分でやるよりちゃんと付き合いたいなと。彼らが僕の表現をやってくれたら最強なんじゃないかという気持ちが強くなって。商業演劇をやってるんだっていう意識が、自分の中で強くなってきてるのかな」
――ミュージカル関係者の知り合いも随分増えたのでは?
「そうですね。ミュージカルに出る演劇人も増えて、垣根も低くなってきているし。とか言いながら、今年、橋本じゅんさんが出ているミュージカルを帝劇に観に行って、楽屋に挨拶に行こうとしたら、受付の人に止められましたけど(笑)。“チケットをお願いしてた松尾なんですけど”って言ったら、“松尾何さんですか?”って聞かれて、帝劇の受付の人にも知られてないのかって、ちょっと胸が痛くなりました(笑)」
――30年を振り返って、ここが転機だったなと感じる出来事にはどんなものがあるでしょう?
「色々な瞬間がありますけど、やっぱり岸田(國士)戯曲賞(演劇界の芥川賞と言われる賞)を取って、演劇の人達がちゃんと目を向けてくれるようになったことは大きいと思います。それまでは、サブカル(サブカルチャー)の中で笑いができる劇団というような認識をされてたから。まあ、いまや素人が各々発信している時代で、そのサブカルって言葉自体、死後になっちゃってますけどね。劇団としての転機は、やっぱり(Bunkamura)シアターコクーンで商業演劇をやるようになったことかな。それまでは実験的な作品が多かったですから」
――劇団が30年続いたことは、松尾さんにとって意外でしたか? それとも予想していたことですか?
「そういうことを考えること自体なかったですね。演劇って2年くらい先の小屋を押さえていかないとダメじゃないですか。そうすると、その2年をいかにモチベーションを保っていくかで精一杯になって、長期的な展望がなかなか持てないし、そもそも生身の人間の時間を売る商売だから、長期的な保証もない。たとえば、今すごく売れてるイケメンをキャスティングしても、その人が5年後どうなってるかわからないでしょう?。それは映画も同じで、公開するまでに2年かかった間に、主役の俳優が主役級じゃなくなってる可能性もあるわけで」