10月6日夜、カーニバル・オン・アイスで実演家・町田さん最後の作品として上演されたのは9分30秒の大作《人間の条件》。演技後、「愛するフィギュアスケート界のためにこれからも頑張ります」と語った町田さん。今後のご活躍も期待しています!(写真はJapan Open《ダブル・ビル》)写真/築田純/アフロスポーツ実演家としての最後の作品は、さまざまな思いが込められた9分30秒の大作《人間の条件》
プロスケーターとして最後の日となった2018年10月6日のために、町田さんが用意した2作品。
昼の部のJAPAN OPENのゲストスケーターとして披露した《ダブル・ビル:そこに音楽がある限り》は、関連はあるものの独立したピアノとヴィオリンの楽曲を“踊り心”で繋げる試み。
そして、夜に行われた「Carnival on Ice2018」で最後に届ける作品として選ばれたのは9分30秒の大作、《人間の条件》でした。
どんな状況に陥ったとしても、運命に抗ったとしても、ほんの少しの意思と勇気があれば、人は一歩ずつでも前進していけるのではないか‥‥。町田さんが氷上舞台で体現する人間の尊厳、そのメッセージに、心が揺さぶられました。
現役時代から作品の解釈の深さ、セルフプロデュース能力の高さには定評があり、《火の鳥》、《エデンの東》など数々の名作を残していますが、引退後に発表した作品も、どれもが前例のない傑作揃い。
日本のフィギュアスケート史に残る芸術作品であり、啓蒙作品群だと思います。
プロスケーターとしての最後の日。
さいたまスーパーアリーナで1万3000人の観客とともに見守りながら、氷上の総合芸術実演家であり演出家でもある町田さんの姿を目に焼き付け、胸に刻んでいました。
「素晴らしい音楽を氷上で十全に表現したい」というその想いは観客の皆さんへ深く、熱烈に伝わったのではないでしょうか。深々と一礼し、慈しむように氷面を撫でる姿にいつまでも拍手が鳴り止まず、スタオベで見送られました。
毎回、こちらの想像の斜め上を行く姿を見せ続けてくれた町田さん。
その姿を氷上で見られなくなってしまうのはこの上なくたまらなく寂しいことですが、「さようならはいいません。パフォーマーとは別の形だとは思うけれども、将来的には研究者としてフィギュアスケート界に貢献できる形があると信じている」と語って新たなステージへ向かった町田さんの、次なる帰還を楽しみにしています。
小松庸子/Yoko Komatsu
フリー編集者・ライター
世界文化社在籍時は「家庭画報」読み物&特別テーマ班副編集長としてフィギュアスケート特集などを担当。フリー転身後もフィギュアスケートや将棋、俳優、体操などのジャンルで、人物アプローチの特集を企画、取材している。