未来の医療 進歩する生命科学や医療技術。わたしたちはどんな医療のある未来を生きるのでしょうか。「未来を創る専門家」から、最新の研究について伺います。
前回の記事はこちら>> 患者の価値観やライフスタイルが多様化し、一方で、検査や治療が複雑かつ高額になる傾向がある今、患者が治療方針を医療者と話し合って、自分で選ぶ時代になっています。
今回も、Choosing Wisely Japan代表の小泉俊三さんに、患者と医療者の関係の変遷について聞きました。
未来を創ろうとしている人:
小泉俊三(こいずみ しゅんぞう)さん
七条診療所 所長
Choosing Wisely Japan 代表
日本プライマリ・ケア連合学会 顧問
医療の質・安全学会 理事医療者は科学的に根拠のある治療をすすめるのが普通
医療を受けるときに、「医師がどういう考えで医療行為を選んでいるのか、その発想のもとを知っておくと、大事な決断をするときに役に立ちます」と小泉さんは話します。
「よい医療をしたいと思っている医師の発想のベースにあるのは科学的根拠に基づく医療(Evidence Based Medicine:EBM)という概念です
(3ページ目参照)。
1980年代に提唱されたEBMは、臨床試験でよい結果が証明されている治療を推奨するという考え方で、多くの医師の間で常識になっています。良心的な医師はそれに則った医療を実施しようと努力しています」と小泉さん。
EBMの考え方をベースに、各疾患の専門家たちが集まって、最新で標準的な治療をまとめたものが「診療ガイドライン」です。診療ガイドラインは新しい研究結果に基づいて更新されていきます。
診療ガイドラインは学会のホームページ、日本医療機能評価機構のMindsガイドラインライブラリなどに掲載されています。
また、乳がんなどでは患者も編集に携わった患者向けの診療ガイドラインが作成され、市販されています。自分や家族の病気について診療ガイドラインを調べてみて、わからないところを主治医や看護師などの医療スタッフに尋ねてみるのもおすすめです。
とはいえ、「診察室で自分の目の前にいる医師が良心的かどうかはわかりません(笑)。また、医師は自分の専門領域の医療をすすめがちです。医師も患者も新しい検査や治療ほどいいものだと思い込む傾向もあります。
日本の医療制度では検査や治療はすればするほど医療機関が利益を得られる仕組みになっていますし、病気の見落としや医療過誤対策として検査をしておきたいという気持ちも働きます。
一方で診療ガイドラインも絶対的なものではなく、個々の患者さんに合わせてアレンジするべきものでもあるのです。
ですから、いろいろと質問して、その医師がどういう意図でその検査や治療をすすめているのかをつかんだうえで受けるかどうかを決めていただきたいですね」と小泉さんは話します。