自家栽培した無農薬の紫蘇を使用
いまから40年ほど前の大村しげさんの著書によると、当時の青志ばは、しそとなすと青唐辛子、茗荷を漬けていました。数十年が経ち、青志ばの製法はわずかに変化したそうです。
「昔から当家には、人と違う道を進みたい気質がありまして」と楽しそうに勝さんは語りはじめます。
「大原では主に赤紫蘇を使っていましたが、祖母の時代に全国の珍しい食品を探している方が、青紫蘇のしば漬けがあることを知り、訪ねてこられたそうです。その方の依頼で漬けはじめたのが(志ば久の)青志ばの始まり。古来、大原で作られていた青唐辛子入りのしば漬けは、その時代には見かけなくなっていました。そこで私の祖母が、昔通りに青唐辛子を入れて漬けたわけです。しかし、時代とともに、お客様の味の好みが変わったことから、現在は青唐辛子は入れていません。また、今は赤志ばが主流になりました」
赤志ば。原材料はなす、赤紫蘇、茗荷、塩のみです。茗荷の風味と酸味が相まって、爽やかな後味を感じさせます。130g 432円(税込み)。とはいえ、今も青志ばは健在。昔からの根強いファンの方が、買いに訪れます。変化といえばもうひとつ。自家栽培していた紫蘇を、7年ほど前から無農薬へと切り替えました。
2月頃に蒔いた紫蘇の種は、4月頃に苗が大きくなります。ここまでをハウス栽培で行ったのち、5月~6月までに畑に植え替え、大きく育て6月下旬から収穫するのです。
「以前は9月に行っていた漬け込みを、現在は7月からお盆までの間に行います。そのタイミングのほうが紫蘇の張りも、香りもいいんですよ。ハウス栽培がない時代は7月頃に行っていた植え替え作業が、繰り上がってきました」と若店主の統さん。
大原の赤紫蘇の葉は肉厚なのが特徴。志ば久では無農薬の自家栽培による紫蘇を使用しています。勝さんによると、大原の紫蘇は中国から伝来したとされる原種に近いものだそう。 しば漬けは大原の生活の象徴
勝さんに大原のしば漬けの基礎を聞いてみました。「大原の人たちはつつましやかな生活を送っていました。暮らしぶりを象徴する一つがしば漬けです。古文書にもなす、紫蘇、唐辛子、茗荷を漬けると書かれていたと聞いています。地元の各家には畑があるので、紫蘇を少し植えて、あとはなす、きゅうり、かぼちゃなど主たる野菜を育ててきました。夏野菜をどう保存するかは大原の人々の課題。しかし、大原には塩だけ買えば、自給自足で、しば漬けが作れる条件が揃っていたのです」
志ば久の店舗外観。三千院からの大勢の観光客が買い物に立ち寄ります。店頭でお客さんを呼びとめる勝さんの、巧みで面白い口上はぜひ聞いてほしい。