2.渾身の“デザイン”にこそ価値が宿る
作り手の美への思いがこもったジュエリーこそ、「使用価値」と「交換価値」の両方を持つ―山口 遼さん
使って楽しいという使用価値と、それを処分したいと思ったときに適正な価格で交換できる交換価値をともに備えた、デザインのあるジュエリーとは、どういう条件を持ったものかを考えてみます。
ブランドの価値とは
世界には今、グランメゾンと呼ばれる歴史と企業規模とを持った宝石店が8、9社ほどあります。高すぎるなどと、いろいろと言われたりしますが、やはり凡百の宝石店とは桁が違います。いわゆるブランド店と言われるものです。
ところで皆さん、ブランドとは何かご存じですか? ブランドとはお客様が自己判断をしなくて良いということ。
つまり、あるジュエリーについて、それが本物なのか、素材にごまかしはないか、いい加減な作りではないのかという判断を、お客様が考える必要がない、なぜならそのブランドは信用できるから、というのがブランドの価値なのです。
こうした宝石店には、アイコンとでも呼ぶべきデザインがあります。このジュエリーなら、あのブランドということが、すぐに分かるものです。メゾンの長い歴史のなかで、特別に引き継がれるデザイン、それはデザインに対する強い思い、伝統の技巧などが詰まったジュエリーです。
もちろん、そうしたアイコンだけにこだわるのではなく、日夜新しいアイデアを求め続けるのがブランドなのですが、ブランドの、美しいジュエリーを作るための素材、デザイン、作りについての、お客様には直接見えない所でのこだわり、努力というものは、大変なものがあるのです。
完成したジュエリーには使う楽しみ、使用価値があり、交換価値があるのは、お分かりになるでしょう。
デザイン、独創性へのこだわりが価値を生む
もちろん、世界にはそうしたグランメゾン以外にも、個人的な店で、驚くようなジュエリーを作り続けている宝石商はいます。作品に対しての執念に近いような思い入れは、場合によってはグランメゾンを凌ぐ場合もあります。そういう作家を探すのも、ジュエリー好きの楽しみでしょう。
こうしたジュエリーに共通しているのは、作家の独創的なデザインに対してのこだわりと愛着、それを表現する職人たちへの信頼と期待。己の目指す作品が出来上がるまで、デザイナーと職人との戦いは、側で見ていてもはらはらするほどの激しさです。
こうした熱い思いと、美しいものを作り、それを使う人をより美しくしたいという気持ちを込めて作っているのか、単に金儲けの手段として作っているのか、これが長い目で見て、交換価値を持つジュエリーと持たないジュエリーの差を作ると思います。
香港が誇る女性デザイナー、ミッシェル・オンさんの最新作。翡翠とアメシストという意外な色の組み合わせと異様なまでに細密なパヴェの技術に注目。デザインはおそらくデフォルメされた花を描いたものでしょう。
この向こう見ずなデザインと作りのデリケートさのアンバランスが、彼女の真骨頂です。今の世界で、これほどまでに大胆なジュエリーはないと思います。本当に女性が作ったもの?といいたくなる。/カルネ(shop@carnetjewellery.com)
●山口 遼さん(やまぐち・りょう)宝石に関するマーケティング、商品・デザイン開発、宝飾史研究の専門家。宝石に関する執筆のほか、講演活動なども行う。小誌「ジュエリー見聞録」も担当。
表示価格はすべて税抜きです。
撮影/Fumito Shibasak〈i DONNA〉 取材・文/土橋育子
「家庭画報」2018年12月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。