「いただいた役の数々と向き合いながら 自分の幅を広げていきたい」
11月の歌舞伎座夜の部では、新作ではなく古典の名作「隅田川続俤 法界坊」で市川猿之助さん演じる法界坊に手代要助の役で共演します。
隼人「『法界坊』は中村吉右衛門のおじさまのお芝居が目にも耳にも焼き付いている演目ですが、澤瀉屋さんだと全く芝居の雰囲気が違うと思います。その中でどうやって要助を演じていくか……幸い父は播磨屋でも澤瀉屋でも要助を演っていますので、父に色々伺ってつとめたいと思っています」。
突けば転がるようなちょっと柔弱なイケメンの役を歌舞伎では“つっころばし”と呼びますが、隼人さんのお父様はそんな役を演じたら当代一の役者さんです。
隼人「“つっころばし”って、とても難しく、本当は僕のような若手がつとまる役ではないのかもしれません。でも今から経験しておかないと内面からの色気というのは出せないと言われているので、11月は、それを追い求める月にしたいですね。要助は、永楽屋という大きなお店の手代に扮していますが、実はお家の重宝を探している吉田家の若君、松若です。永楽屋の娘のおくみと許嫁の野分姫の両方に言い寄られてじゃらじゃらする場面もありますが、性根は松若であることを忘れずに手代と武士をうまく演じ分けたいと思います」。
1月には新春浅草歌舞伎への出演も決まりました。隼人さんは第一部と第二部で4つの演目に出演します。
隼人「第1部の『義賢最期』では下部折平実は多田蔵人行綱というお役です。折平から行綱への変化を観て頂きたいと思います。第2部ではまず、『寿曽我対面』の鬼王新左衛門。最後に出てくる大切な役なので若手の自分がこの芝居をしめるんだという気持ちでつとめていきたいです。そして『番町皿屋敷』の青山播磨。相思相愛だったのに自分の愛情を試されたというだけで愛する人を殺してしまうというのは、現代の感覚では受け入れられない部分もありますが、岡本綺堂が書いた心理描写を大切にしたいと思います。一生の恋が散った男の無念を伝えられるよう演じます。最後は、『乗合船惠方萬歳』の大工。粋な職人の雰囲気を大事に踊リたいと思います」。
毎年、出演を重ねる中で、新春浅草歌舞伎への特別な思いもあるのでしょうか?
隼人「僕は浅草メンバーの中でもずっと年齢が一番下でした。ほぼ若手だけの一座ですが、教わったことをやるだけの発表会ではいけないと思っています。自分たちで考えていかないと。ここ2年くらいは自分が今後やらせていただきたいものも、浅草で見つけてきました。本公演で古典の大きなお役をやらせていただけるようになったのは浅草がきっかけです」。
そんな隼人さんが今後、演じて見たい憧れの役は?
隼人「今年の新春浅草歌舞伎では『義経千本桜 鳥居前』の佐藤忠信実は源九郎狐をやらせていただきましたが、いつか忠信を通しで演じてみたいですね。他にもやりたいもの、やりたい役は尽きませんが、今はまだ自分で役を限定せずに何でもつとめて行きたいと思っています」。