髙橋大輔選手、4年ぶりの現役復帰。圧倒的な表現力で新たなる世界を見せる
登場した瞬間、会場の空気が髙橋さん色に一変。肉離れによる調整の遅れで万全ではなかったものの、「緊張で脚がガクガクしましたが、西日本選手権に向けて試合勘がつかめた気がします」と、手応えを感じた様子でした。写真/築田 純/アフロスポーツ髙橋大輔選手
SP「The Sheltering Sky」77.28点 近畿フィギュアスケート選手権
10月6日のJapan Open、カーニバル・オン・アイスの取材を終え、翌7日早朝に近畿選手権の会場、尼崎スポーツの森へと移動すると、すでに大勢の方々で会場が賑わっていました。それもそのはず。4年ぶりに現役復帰した髙橋大輔さんの初戦となる大会が、この近畿選手権だからです。
7月1日に電撃的な復帰会見を行い、「あの唯一無二の演技を、再び競技の世界で見ることができるとは……」とファンの皆さんを感涙させた髙橋さんでしたが、8月中の合宿で軽い肉離れを起こしてしまうアクシデントが発生。大事をとってアイスショーへの出演を取りやめていたため、復帰後の初披露がこの大会本番となったのでした。
この4年間、様々な研鑽を積んできたとはいえ、久しぶりに味わう試合ならではの緊張感。さすがの高橋選手も初戦は硬くなってしまうのでは?と思っていたら、試合後の第一声がやはり「今もドキドキしています」でした(笑)。無理もありません、4年ぶりですから! リンクに入る時の表情もやや強張っていたようにも見えました。
それでも。「曲を初めて聴いた時から、その世界観にすぐ入り込めた」という坂本龍一さん作曲の「The Sheltering Sky」が流れ、遂に始まった2分40秒。氷上の髙橋さんの存在感、音楽を体の中から奏でながら会場の空気を彼の色に染め上げて行く吸引力は、やはり別格でした。
冒頭のトリプルアクセルが成功すると会場からは割れんばかりの拍手。3回転フリップ-3回転トーループは回転不足を取られ、CCSP(足換えキャメルスピン)も減点されてはいましたが、ステップの加点はさすがの高評価でした。
復帰後、観客の皆さんの前での初滑りとなったSPは77.28点で1位でしたが、翌日のFSではミスがいくつか出てしまい、総合3位という結果になりました。でも、演技終了後に髙橋さんが見せた笑顔の嬉しそうなこと。体力やペース配分など、競技ならではの課題も改めて見えた今回、目標としている全日本選手権に向けて収穫は多かったのではないでしょうか。
全日本選手権でSPとFS、2本のプログラムを演じ切って、また新たなる大輔ワールドへすべての観客を誘ってくれることを期待しています。
フィギュアスケートシーズンが本格的に開幕した10月にしみじみと感じたのは、素晴らしいスケーターの皆さんの演技を目の当たりにできる幸せ、でした。
ただ、町田さんがご自身のブログで語っていらしたように、スケーターとしての「身体」と「時間」は有限だというのもまた事実。氷上でその姿を見ていられる日はいつかは終わりが来ます。
そのことをよくよく心に刻み、個性豊かなスケーターの皆さんによる渾身の演技を同時代に見ていられる喜びを噛みしめて、今季もまたフィギュアスケートの世界を堪能したいですね。
小松庸子/Yoko Komatsu
フリー編集者・ライター