どれだけ困難に挑んで、恥をかいていけるか
実は中井さん、今年の7月から8月も、映画の撮影で三谷さんと一緒だったのだとか。
作品は、2019年に公開予定の三谷さん監督・脚本による政界コメディ『記憶にございません!』。中井さんが主演を務め、記憶を失った総理大臣を演じる。
「支持率が史上最低だった総理なんです。それが記憶を失い、どう立ち回っていいかわからなくなったことで、がらっと人が変わったようになり、捨て身で自分の夢と理想を取り戻して貫き始める。三谷さんらしい映画になっていると思います」
それにしても、シリアスな作品からコメディ、時代劇にホームドラマと、活躍の幅が広い中井さん。いまや日本を代表する俳優の一人である57歳は、“反目を張る”生き方、つまり、皆が選ぶほうとは逆側を選ぶことを心がけてきたという。
「流行に乗っていけば、ちやほやされるけれど、流行の役柄ばかりが存在するわけじゃない。レコードでいうなら、僕はA面ではなくB面でいこうと思って、ずっとやってきました。
早くに父(俳優の佐田啓二さん)を亡くして、自分で物事を判断しなければという意識が、子どもの頃から強くありましたからね。
俳優という商売も、大学生のときに自分の将来を探るために始めたことですし、それがいつしか、多くのお客さまに見ていただけるようになって、大学卒業と同時に職業俳優になったときも、まず10年修業をして、その間にいろいろ考えようと自分で決めました。
そうして、たくさんの先輩に可愛がってもらい、さまざまな話をうかがっているうちに、B面をいくのが俺の生き方だという考えに辿り着いたんです。まだ20代の頃でしたね」
確かに、今回のミュージカルへの初挑戦にしても、中井さんほどの俳優であれば、無難に断るほうを選んでもよかったはず。そこにあえて飛び込むところが、中井さんの中井さんたる素敵なところだ。
「50~60代は“表現をしていくこと”に自分を追い込んでいきたいと思っているんです。もちろん 生活ありきではありますが、ここからどれだけ進化できるか、試したい気持ちがあって。
本来は20代で考えることかもしれません。でも、その頃の僕には、ほかに考えることがありすぎた。それで今、そんなことを思う自分がいるのかなと思います。これからも、どれだけ困難に挑んで、恥をかいていけるか。
実は僕、初舞台の人に心配されてしまうほど、いまだに緊張する人間でもあるんですが(苦笑)、大急ぎで衣装を着替えて何役も演じながら歌うという経験を、57歳になってするというのは、なんだかいいなと感じています」
中井貴一/Kiichi Nakai
1961年、東京都出身。デビュー作の映画『連合艦隊』(81年公開)で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。以降、88年のNHK大河ドラマ『武田信玄』での主演など、俳優としてさまざまな作品で活躍。NHK『サラメシ』ではナレーションを務めている。
シス・カンパニー公演『日本の歴史』12月4日~28日
世田谷パブリックシアター
S席1万円ほか
●シス・カンパニー
電話:03(5423)5906
2019年1月6日~13日
梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ S席1万円ほか
●大阪公演事務局
電話:0570(004)555
※全ステージとも開演1時間前より当日券を販売。
詳細は公式サイト
http://www.siscompany.com/mitani/ まで。
作・演出/三谷幸喜 音楽/荻野清子
出演/中井貴一、香取慎吾、新納慎也、川平慈英、シルビア・グラブ、宮澤エマ、秋元才加
演奏/ 荻野清子(ピアノ)、阿部 寛(ギター)、古本大志(チューバ、ベース)、萱谷亮一(ドラム、パーカッション)
取材・構成・文/岡﨑 香 撮影/増田 慶 ヘア&メイク/藤井俊二
「家庭画報」2018年12月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。