旬を愛でる花旅・庭めぐり(52)
ストーリーを知ればますます行きたくなる!京都の紅葉・おすすめ3選 〜京都・東福寺、北野天満宮、三千院
東福寺の臥雲橋から通天橋を望む。渓谷「洗玉澗」を埋め尽くす紅葉は圧倒的な美しさ。東福寺
潔さが生み出した、息を呑むほどの絶景
10月中旬から各地の紅葉のニュースが流れていて「京都はまだなの?」と待ちわびている方も多いと思います。
京都の紅葉の旬は意外に遅く、毎年11月中旬から12月上旬にかけて見頃になります。今年もこれからが本番。
今回は、ストーリーのある名所、3か所をピックアップしてみました。
名所に秘められた物語を知ると、実際にその景色を目の前にした感動もさらに大きく盛り上がりますよ。
さて、京都の魅力を伝えてくれるCMといえばJR東海の「そうだ 京都、行こう。」。
このCMは1993年の秋から始まり、この秋で26年も続いています。美しい画像と秀逸なキャッチコピーで京都へ誘われた方もたくさんいると思います。
じつは私もそのひとり。それは1997年の秋のCM。テーマに取りあげられたのは東福寺でした。
「六百年前、桜を全部、切りました。春より秋を選んだお寺です。」
ポスターのこのキャッチが私の心を捉えて放さず、どうしてもその紅葉を見たくなり、ちょうど関西に出張があったので、帰りに京都に立ち寄りました。
東福寺は「洗玉澗」(せんぎょくかん)という渓谷を挟む起伏のある地にあり、その渓谷には「臥雲橋」(がうんきょう)、「通天橋」、「偃月橋」(えんげつきょう)と3本の木造橋廊がかかっています。
通天橋から望む「洗玉澗」の紅に染まる景色はとくにスケールが大きく、フォトジェニック。スマホで撮るならぜひパノラマ仕様で!渓谷を埋めるように植えられたモミジは約2000本。
紅葉の時期、橋から眺めるとそれはまるで紅葉の海のようで、光や風で刻々と変化する美しいグラデーションに目だけでなく、体じゅう、心の奥までも染め上げられるようなパワーがありました。
では、この圧倒的な紅の世界はどうしてできたのか?
京都の社寺ではモミジと同じボリュームくらいの桜が植えられているのが一般的です。だから春と秋、どちらも楽しめ、参拝に詣でる人も多くなります。
ところが東福寺には桜の木が1本もありません。渓谷を埋める木のほとんどがモミジだから、これほどまでに圧倒的な紅葉となるのです。
桜の木がない、のではなく、正確には600年ほど前に桜をすべて伐採してしまったのです。
東福寺の画僧・吉山明兆が室町幕府第4代将軍の足利義持に絵を献上した褒美として「何が望みか?」と尋ねられたところ、明兆は「それでは境内にある桜を禁じてください。花見客が増えると遊興の地となり修行の妨げとなります」と答えたそうです。
それを聞いた義持は感激し、桜をすべて伐採させたと伝えられています。
決して「春より秋を選んだ」わけではないのですが、結果として秋の紅葉がほかの名所と比較してより濃いものになり、京都でも屈指の紅葉の名所となったわけです。
JR東海のテレビCMのほうでは最後に「うん、潔いな」の一言で結ばれます。
この「潔さ」こそが東福寺の紅葉が美しい理由だと、鮮やかでつややかなモミジの海に心を染められながら納得したのを覚えています。
東福寺 京都府京都市東山区本町15−778
アクセス/JR・市営地下鉄「京都駅」からJR奈良線で「東福寺駅」下車、徒歩約10分。京阪電車「京阪東福寺駅」下車、徒歩約10分。
拝観料/通天橋・開山堂は400円、東福寺本坊庭園は400円
TEL/075-561-0087
拝観時間/8時30分〜16時(11月〜12月初旬)
無休
http://www.tofukuji.jp/index.html北野天満宮 もみじ苑
洛中と洛外を分ける土塁を赤く染め上げる紅葉には、歴史の重みがある
次にご紹介するのは京都では「北の天神さん」と呼ばれ親しまれている北野天満宮です。
平安時代に政治家として、また学者として活躍した菅原道真公を祀る天満宮は全国に約1万社あると言われますが、ここはその宗祀(総本社)です。
学問の神様として知られ、春の梅でも有名ですが、じつはここには「もみじ苑」があるのです。
紙屋川にかかる「鶯橋」の真っ赤な欄干と赤く染まったモミジの共演。このインパクトの強さは生涯忘れられない思い出の景色に。「もみじ苑」が公開となったのは、2007年のこと。
いまではすっかり紅葉の名所として有名になっていますが、公開から11年というのは、京都の紅葉の名所としては新しく、新鮮な印象があじわえるのではないかと思います。
「もみじ苑」は境内の西側、天正19年(1951)に豊臣秀吉が水防のために築いた土塁「御土居」(おどい)沿いにあり、一帯には約300本のモミジが植えられています。
中には樹齢350〜400年のモミジも数本あり、紅葉の季節には御土居沿いに流れる北野川の川面も赤く染め上げる景色には長く続いてきた歴史の重厚さ、荘厳さを感じさせてくれます。
さて、その御土居ですが、東は鴨川から西は紙屋川まで、北は鷹ヶ峯、南は九条まで総延長24kmに及びます。
堀の高さは約5m。その岸辺まで埋める鮮やかな敷きモミジの美しさにも心を惹かれる。堀の高さは約5m、底辺幅は10m前後と、かなり規模が大きく、その時代にこれだけの規模の土塁を造らせた秀吉の力の大きさをあたらめて実感させられます。
また、この土塁を境に、洛中、洛外の区別がされるようになったと言われています。
現在、その史跡が10カ所ほど残っていますが、この「もみじ苑」の御土居はかなり原型に近いと言われています。
そんな歴史を振り返りながらモミジに染まる御土居をそぞろ歩きしていると、古の人々から延々と続く「紅葉を愛でる」という日本人のDNAが自分にもあることを実感できます。
11月10日~12月2日までの期間、日没から20時までライトアップされる。光の中に浮かび上がる紅葉の妖艶な景色もまた魅力的。北野天満宮 もみじ苑 京都市上京区馬喰町
アクセス/JR・市営地下鉄「京都駅」下車。市営バス50、101系統で「北野天満宮前」下車すぐ。
入苑料/700円
TEL/075-461-0005
開苑時間/9時〜16時 ※ライトアップ期間中(11月10日〜12月2日)は20時まで
無休
http://www.kitanotenmangu.or.jp三千院
華やぐだけではない。心を静める紅葉があってもいい!
真っ赤に染まるモミジの華やかな景色は心を躍らせますが、何か所か続けて見ると、少し心を落ち着かせたくなるものです。
そんなときに訪ねたいのが京都の北側、大原にある三千院です。
比叡山麓に広がる大原は、古くは世をはかなんだ貴人や修行者が隠れ住んだ里山で、静かな環境の中で傷つき疲れ果てた心を癒やす行く場所でもありました。
里山の豊かな自然には、疲れ、傷ついた心を包みこむような優しさがあったのではないかと思います。
だから現在でも大原周辺はパワースポットとして人気があるのでしょう。その大原にある三千院の紅葉は、紅一色ではないのが逆に魅力。
三千院と言えば、紅葉と同じくらい魅力的なのが青苔の絨毯です。
池泉回遊式庭園の「有清園(ゆうせいえん)」には、スギやヒノキが立ち並び、その足元をしっとりとした青苔が埋め尽くしていますが、紅葉の季節には、しっとりした緑の上に真っ赤に染まったモミジが降り注ぎ、緑と赤のコントラストがとても美しい景色を生み出します。
池泉回遊式庭園の「有清園」の緑と赤のコントラストを寺院の中から心ゆくまでゆっくりと眺めてみたい。その景色の中に佇んでいると、華やかでありながら、どこか心が静まってきて、何だかホッとした気持ちになるのです。
そしてもうひとつ、三千院の癒やしと言えば、「往生極楽院」。モミジに染まる景色の先にある小さなお堂に祀られているのが国宝の阿弥陀三尊像。この三尊像はとても大きく、堂内に納めるために、天井を船底型に折り上げているのが特徴です。
三千院の境内にはかわいらしいわらべ地蔵の姿も。思わず笑みが浮かんでしまう愛らしい姿も癒やしアイテム。真ん中に鎮座する阿弥陀如来はとても優しいお顔。注目すべきはその手前、向かって右側の観音菩薩と左側の勢至菩薩です。
観音菩薩は蓮台を捧げ持ち、勢至菩薩は合掌りお姿。よく見るとどっしり座っているのではなく、脚を少し広げ、前屈みになっています。 これは「大和座り」と言われるもので、死者を優しく迎え入れる姿を表しているのだそうです。
日本の仏像の中でも珍しいそうですが、その「どうぞ、こちらにおいでなさい」というお姿を目にすると、何だか飛び込んで行きたくなるような安堵感が心に広がります。
ああ、ここはやっぱり癒やしのお寺なのだ、と心から思いました。
紅葉を愛でる旅の最後に、ぜひ三千院に立ち寄ることをおすすめします。
三千院の参道の奥、勝林院の隣にある宝泉院には額縁庭園があり、額に入れた1枚の絵画のような紅葉の景色を堪能しながらお抹茶をいただくことができる。三千院の紅葉を愛でたあとに立ち寄って一休みするのもおすすめ。三千院 京都府京都市左京区大原来迎院町540
アクセス/JR・市営地下鉄「京都駅」下車、京都バス17系統で約60分、「大原」バス停下車、徒歩約10分。
拝観料/700円
TEL/075-744-2531
拝観時間/8時30分〜17時
無休
http://www.sanzenin.or.jp