レコード大賞ほか多くの賞に輝いた「シクラメンのかほり」をはじめ、ヒット曲を多々持つ布施さんだが「過去には関心がないんです」と。自宅には昔のレコードが1枚もないのだそう。――どの歌も素晴らしいのに、2小節だけですか!?
「たとえば、レコーディング中にチラッと見た譜面や歌詞の言葉が、自分の頭の中で“音”として響いてしまったら、もう悲しい。
その瞬間、“歌の心が逃げている”ことになるから。もちろん、できるだけそういうことがないようにと思ってやってはいますが、100%満足できることは滅多にない。
コンサートも同じで、思うように歌えなかったり、思うようなところへ持って行けなかったりして、悔しいなあと思う。
それで終わった途端に、次のツアーの台本を書き始めたりするので、悔しさが原動力になっていることも事実ですね。一歩でも半歩でも前に進みたいですから」
――アルバムのタイトル『WALK』にも、そんな気持ちが込められているのでしょうか。
「そうですね。表題曲のメロディ自体は、ポール・バラードさんというイギリス人の作曲家が作ってくれたものです。
聴いた時にいいなと思って、作詞家の松井五郎さんに、20代前半から歌っている『マイウェイ』に代わるものができたら……という話をしました。もう一つ、地平線の話もしましたね」