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大原千鶴の心に残るレシピ「ぶり大根」

2018.12.06

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私の心に残る味 12月

ぶり大根

大根にはたくさん種類があります。赤ちゃんの頭ほどもある聖護院大根や皆さんもよくご存じの青首大根など。地方によっても違いますね。詳しいレシピは次ページ>>

ぶり大根


料理・文/大原千鶴


私の実家は街中から1時間半ほど山に入って行った場所なので、昔は京都市内ながら、冬になるとたくさん雪が降りました。多い時には1メートルを越す積雪があり、スキー場があったくらいです。

綺麗だった紅葉が終わり、山のような落ち葉を掃き切ると郷には色がなくなります。木枯らしが吹きつけ、すべてのものが寂しく厳しく縮こまったようなグレー1色の景色。

そんな冷え冷えとした風景の中に、ある日はらはらと白い雪が降り始めます。降ってきたなぁと夜を過ごし、目が覚めるとあたり一面が真っ白。一夜にして美しく華やかな景色に一転するのです。

降ったばかりで誰の足跡もついていない雪を見るとなんだかとても気分が高揚したものです。スポンジケーキにかかったたっぷりの生クリームのように見えるからなのか、その新雪に誰よりも早く足跡をつけたい衝動からなのか、あのワクワク感は大人になった今でも忘れられません。

年の暮れ、うちではお正月の自家用としてぶりを1本買います。それを冷蔵庫ではなく雪に埋めて保存します。

お正月はまず、たっぷりの大根おろしでお刺身に。脂ののったぶりには大根おろしがよく合います。そして残った身は塩ぶりにしたり、幽庵焼きにしたりしていただきます。

毎日のようにぶりが雪の中から出たり入ったり。だんだん身がなくなり、最後は骨と頭と尾を残すのみ。それを食べやすく出刃包丁で割り、大根と一緒にグラグラ煮てぶり大根にします。甘辛いお醬油味の染みた大根はくずれるほど柔らかく、ぶりもその脂で骨までとろけるようなつやつやの煮え加減でした。

あらも大根も食べ尽くし、残ったお汁は置いておくと寒さで煮凝りになります。それをまた捨てずにご飯にかけて食べたり、お豆腐を炊いたり。

雪深い山の中でお正月の大ご馳走であるぶり1匹を何日かかけて、すべて食べ尽くす。豪快でいて慈愛に満ちた食べ方。食べるということの意味をこんなふうにして学んでいった気がします。

ぶり大根は私にとってソウルフードともいえるもの。寒くなるほどに甘みが増す大根を脂がのったぶりがさらなる美味に引きあげます。ぶりが主役のお料理のようですが、私は断然、大根が主役だと思います。

今日のぶり大根はおもてなし用。あらは……私がいただきますね。
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