切り絵は、カヤに群れるキ クイタダキを描いたもの。 カヤは常緑針葉樹で、私の フィールドでは山間部に自生する。とがった葉の好き なキクイタダキとは、とて も相性が良い。切り絵の大きさは80×60センチ。 農地で畑にするところもだいたい決まったものの、なにを作るかが問題だ。みんなとあれこれ考えて、先ずは、菜の花とレンゲの種をまくことにした。
子供の頃、菜の花の甘い香りに包まれ、モンシロチョウや モンキチョウと戯れて一日を過ごしたことが忘れられないので、この里山の原風景をとりもどそうということになった。
アトリエの梅が咲き始めた。蝶や蜂たちに甘い蜜をたっぷりと提供してくれる黄色と桃色のお花畑。そんな楽園を夢見ながら、初の仕事に勤しんだ。
そんな話をしていたらすぐに耕作地に、 西村さんがトラクターを持ち込んで土を攪拌してくれた。
強ばっていた表皮が、さくさくとほぐされてゆく。大型トラックで堆肥を運んであったので、黒色と黄土色の土が混ざり合ってゆくのがとても美しく感じられる。
長年眠っていた土が甦る瞬間の喜びは、私にしか味わえないものだろう。
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1954年滋賀県生まれ。写真家。 切り絵作家。
第20回木村伊兵衛写真賞、第28回土門拳賞などを受賞。著書に『今森光彦の心地いい里山暮らし12か月』(世界文化社)、『今森光彦ペーパーカットアート おとなの切り紙』(山と溪谷社)ほか。
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