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進化する「がんゲノム医療」の現状と未来について。一人一人のがんには違いがある

2018.12.14

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一人一人のがんの遺伝子の異常に合った治療を目指す


ただ、特定の遺伝子の変異があり、それに合った分子標的薬を使ったとしても、薬を使ったすべての患者に効くというわけではありません。

「患者さんによる薬の効果の違いは、遺伝子変異のあるがん細胞の数が少ない、ほかの遺伝子もセットになって、がん細胞を増殖させているといった、さまざまな原因が考えられています」と中釜さんは説明します。

また、がん細胞はいったんできるといつも同じ状態ではなく、がん自体の環境に合わせて変化しているのも治療が難しい理由の一つです。


大きながん組織になると、中心の部分は酸素や栄養が足りずに壊死して、それを周囲のがん細胞が食べる、免疫をかいくぐる物質を出すなど、貪欲に生き残る戦略を持っており、その際には遺伝子も変えていきます。

このようながんの遺伝子の異常は、がんが発生してから時間が経つほど複雑になるといわれています。つまり、若い人のがんと高齢者のがんを比べると、高齢者のがんのほうが遺伝子異常が積み重なっていることが多いのです。

さらに、患者がもともと持っている体質、喫煙歴や感染歴の有無、腸内細菌叢などによっても、免疫やがん細胞のありようが変わっていきます。

このように、同じ部位のがんであっても、遺伝子を調べると大きな違いがあることから、よりよい治療法は一人一人異なることがわかってきました。

そこで、患者が持つがんの特徴、特に遺伝子の異常を調べ、一人一人のがんの性質に合った治療をする、がんゲノム医療が始まっています。がんゲノム医療はプレシジョン・メディシン(精密医療)、がんの個別化医療などとも呼ばれています。

「がんゲノム医療が進んでいけば、新薬の開発が促進されます。また、画像診断や病理診断、たんぱく質など、ほかの代謝産物などのバイオマーカーの情報なども組み合わせて、一人一人のがんの性質を丁寧に見極めたうえで、薬物療法の薬の種類や用量、使う順番などが決められるようになるでしょう」と中釜さんは語ります。

国もがんゲノム医療には力を入れており、2019年には、114種類の遺伝子変異などを一度に調べられる遺伝子パネル検査が保険収載される予定です。

次回は、このパネル検査など、がんゲノム医療が社会でどのように実現され、患者にどのような恩恵があるのかについて取り上げます。
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