フィギュアスケート愛(eye)とは……本誌『家庭画報』の「フィギュアスケート」特集を担当する、フリー編集者・ライターの小松庸子さんが独自の視点で取材の舞台裏や選手のトピックスなどを綴ります。
バックナンバーを見る>>> グランプリファイナルを沸かせた3選手
紀平選手、宇野選手、チャ・ジュンファン選手に注目!
前年度の成績などによって出場資格を満たした選手たちが、アメリカ、カナダ、フィンランド、日本、ロシア、フランスで開催された6大会で競い合ったグランプリシリーズ(GPS)2018。
6大会での男子、女子、ペア、アイスダンスでそれぞれ上位6名、6組だけが出場できるグランプリ(GP)ファイナルが12月7日〜9日にカナダのバンクーバーで開催されたわけですが、16歳の紀平梨花選手が見事やってくれました!
SP「月の光」より。バレエや体操を習っていたこともあり、繊細な表現力も紀平梨花選手の強み。トリプルアクセル以外も要注目です。写真/アフロ紀平梨花選手 日本
SP「月の光」82.51点1位(FS 150.61点1位、合計233.12点優勝)
今年からシニアに参戦したばかりの紀平選手。世界上位6人の女子選手が揃うGPファイナルへ出場するだけでもすごいことなのに、ソチ五輪チャンピオンのアリーナ・ザギトワ選手(ロシア)に競り勝ち、圧巻の初優勝を飾りました。日本人選手のシニア初シーズンでのGPファイナル制覇は、2005年の浅田真央さん以来となります。
その予兆は、GPSデビュー戦にして初優勝を遂げた、11月のNHK杯からありました。公式練習では高い成功率だったトリプルアクセルでしたが、SPではさすがに緊張もあったのか転倒。69.59点での5位と出遅れてしまった時点で気持ちが切れてしまっても仕方ありません。
それが、一夜明けたFSの演技では、冒頭のトリプルアクセル−3回転トーループ、2本目のトリプルアクセルを軽やかに成功させて加点のつく出来映え。154.72点、総合で224.31点をあげ、宮原知子選手、エリザベータ・トゥクタミシェワ選手(ロシア)を抑え、逆転での優勝となりました。
GPS初出場初戦での優勝は、日本人では初めて。どんな選手でも緊張するはずのデビュー戦ですが、失敗してもすぐに立て直せる修正能力の高さとメンタルの安定という成長が見てとれました。続くGPS第2戦のフランス杯でも優勝した安定感と調整力を見て、これはGPファイナルでも台乗りできるのでは?と期待していたのですが、まさかいきなりの優勝とは。
ファイナルに至るまでの2戦は、いずれもSPでジャンプなどを失敗してしまい、FSで1位となっての逆転優勝でした。それはそれで絶好調ではないながらも落ち着いて修正できる証しなので強みでもあるのですが、今回のGPファイナルでの収穫は今までやや苦しんできたSPで、完璧な演技ができたこと。
本番では失敗してしまうことが多かった冒頭のトリプルアクセルを成功させ、11月のGPSロステレコム杯でザギトワ選手が記録した、世界最高得点である80.78点を更新する82.51点という高得点を叩き出しました。
ソチ五輪での劇的な優勝以降、しばらくは無敵と思われた世界女王ザギトワ選手に、SPでもFSでも1位を譲らなかったことは、今後の大きな自信につながるに違いありません。
女子のジャンプの中で最も基礎点が高いトリプルアクセルという大技を擁する紀平選手は、トリプルアクセルばかりに注目が集まりがちですが、それだけが持ち味ではないのが彼女の強み。
6種類の3回転ジャンプを跳ぶことができ、スピンやステップもレベル4の高得点を取れるスケーティングスキル、バレエで培ったしなやかさも併せ持っています。
天性の身体能力の高さに磨きをかけて経験値を上げていけば、さらに魅力的な演技を披露してくれるはず。ロシアの上位独占時代に風穴を開けたこの快挙により、今後ますます面白くなるに違いない女子フィギュアスケート界から目が離せません。