和傘の技術を生かした斬新な商品が充実
大村しげさんが3代目店主の元を訪れてから約45年。時は流れ、京和傘の生産数は減少し、現在、京都で和傘作りを行うのは日吉屋だけになっています。逆境のなか、1990年代中頃から傘の技術を取り入れた照明器具のバリエーションを充実させ、これが評判に。また、いち早くインターネット販売にも着手してきました。こうした取り組みが実り、いまや日吉屋の製品は海外約15か国で展開されています。
コラム:
そのほかにも様々な新しい試みを展開●今年の1月には、洒落た京都の雑貨を揃えたセレクトショップ「ひよしやクラフトコレクション」を本店内でスタート。
●ミニ和傘、ミニ照明を作る体験教室を開催(詳細・予約は日吉屋ホームページにて)
和傘の技術を生かした「古都里(ことり)」シリーズのペンダントライト。2万3000円~(税込み)。新しい取り組みに積極的な日吉屋のホームページで、「伝統とは革新の連続である」との一文を見つけました。一方、大村しげさんは3代目店主の人柄を次のように紹介。
「日吉屋さんは、軍隊で機械を扱うておられたので、早うから車がお好き。そのうえ、歴史と地理もお好きやから、魚釣りの竿とカメラを持って、車で全国を旅行される。とても六十を過ぎたお方とは思えんくらい、気がお若い」(『京の手づくり』)
京都で生まれたアイテムを揃えた「ひよしやコレクション」は、知る人ぞ知る通好みの品が並びます。写真は京都発の尚雅堂ginger(ジンジャー)シリーズ。左は友禅紙を使った名刺入れ・各2484円(税込み)。右は和綴じるメモA5・1404円(税込み)。お店の方に聞いたところ、記述どおり、3代目店主は新しいものに意欲的な方だったとのこと。どうやら、その気質は現在の日吉屋にも受け継がれているようです。日吉屋の伝統的な京和傘づくりが脈々と受け継がれているのは喜ばしい限り。
装いに合わせて和傘を着替える楽しさ
大村しげさんの没後、自宅に残された生活用品4万5000点超は国立民族学博物館(大阪・吹田市)に収蔵されました。そのなかには和傘がなんと15本もありました。『京の手づくり』では、はとば(※)の無双、紺の蛇の目、ひわ(※)の柄風などの蛇の目傘を気分に応じて使い分けていたことが書かれていました。
※「はとば(鳩羽)」は薄紫色、「ひわ(鶸)」は黄緑色のこと。「目の覚めるような深紅の傘は、うしろ姿だけ見てもらうことにしまひょ」(『京の手づくり』)というユーモラスな一文を読めば、和傘の楽しさがご理解いただけるのではないでしょうか。
雨の中、きもので出かけることが憂鬱な方は少なくないと思います。けれど、日吉屋の蛇の目傘を手に傘道楽を気取れば、きっと雨の日が待ち遠しくなるに違いありません。
Information
日吉屋
京都府京都市上京区寺之内通堀川東入ル百々町546
川田剛史/Tsuyoshi Kawata
フリーライター
京都生まれ、京都育ち。ファッション誌編集部勤務を経てフリーライターとなり、主にファッション、ライフスタイル分野で執筆を行う。近年は自身の故郷の文化、習慣を調べるなか、大村しげさんの記述にある名店・名所の現状調査、当時の関係者への聞き取りを始める。2年超の調査を経て、2018年2月に大村しげさんの功績の再評価を目的にしたwebサイトをスタートした。
http://oomurashige.com/ 取材・文/川田剛史 撮影/舟田知史(トライアウト)