日本が誇る伝統工芸に携わるかたがたとともに製作した、現代の暮らしを豊かに彩る家庭画報オリジナルの逸品をご紹介します。
撮影/鈴木一彦
涼やかな夏のテーブルコーディネートに欠かせないガラスの器。華やかな装飾が美しい洋食器のアンティークで重厚感を出したり、吹きガラスの器の優しい表情を生かしたり……と、ガラス器の楽しみ方はさまざまです。今回、家庭画報が作り出したガラスの器は、「和モダン」なテーブルコーディネートにぴったりの皿です。細部にまでこだわった洗練されたデザインは、江戸切子の職人による熟練の技だからこそ実現できました。
スクエア皿に夏の前菜を盛って。くぼみに添えたビネガーソースは、帆立のタルタルを赤ワインビネガーのジュレで巻いたもの(奥左)につけて。曲げわっぱやマットな漆皿、錫など、異素材の器とも相性がよく、使い勝手にすぐれている。
「江戸切子の粋が詰まったモダンな器を探していました」と話すのは、製作のアイディアを提案してくださった料理研究家の宮澤奈々さん。前菜に、パンに、デセールにと、一器多様にモダンな演出が楽しめるように、スクエアの形をとりました。ひとひらの花弁のように彫り込んであるくぼみは、ソースやオイル、塩などを添えるためのもの。直線的な器に力強く彫られたカーブがスタイリッシュな印象です。
皿の底面の裏に丁寧に彫られているのは、「菊繫ぎ文」という、「喜びを久しく繫いでいく(菊=喜久)」との思いの込められた、江戸切子では代表的な文様です。ガラス越しにうっすら浮かび上がる文様は、料理を盛りつければ隠れるため、お客さまが召し上がって初めて見えるその美しさに、サプライズを楽しんでいただけることでしょう。
一緒に考えてくださったかた
宮澤奈々(みやざわ・なな)さん料理サロン「Cʼest Très Bon(セ・トレ・ボン)」主宰。家庭で取り入れやすいレシピと、美しい盛りつけやセッティングが好評を博している。コラボレーションによる器やクロス、お菓子など多数。
熟練の職人技がなせる江戸切子の「粋」 江戸時代の一八三四年、江戸大伝馬町でビードロ(吹きガラス)屋を営む加賀屋久兵衛がガラスの表面に彫刻を施したのが江戸切子の始まりとされています。明治十四(一八八一)年には、当時最先端の技術を有していたイギリスから、ットガラス技師のエマニエル・ホープトマン氏を招き、その指導のもと、現代にまで伝わる江戸切子の伝統的ガラス工芸技法が確立されました。以降、「粋」を好む江戸っ子の文化の中で洗練され、高い機能性とデザイン性を誇るようになりました。
スクエア皿はパン皿にも活用できる。竹炭を練り込んだパンでキャロットラペをはさみ、皿と同素材のガラスピックを刺して。
江戸切子の美の根幹をなすのが、表面に施された緻密な文様です。熟練の職人は、大きさや幅の違いによって何百種類とあるダイヤモンドホイールを巧みに使い分け、縦、横、斜め、直線に曲線……と自在に文様を描き出します。
江戸切子の文様は、代表的なものだけでも約二〇種類存在します。この古典柄をいかに美しく細密に彫れるか、また、これらのデザインをもとにいかに新しく独創的なカットパターンを生み出せるか……、現在約一〇〇名いるといわれている職人たちは、先人の築いてきた技術を受け継ぎながら、江戸切子の新しい形を模索して切磋琢磨しています。
高速で回転するダイヤモンドホイールにガラスをあて、カットを施す。作品のでき上がりを左右する、高い集中力を要する作業。
今回のスクエア皿のアイディアのもとにもなった、堀口 徹さんの作品「Crossing」。ガラス越しに文様がうっすらと浮かび上がる。
今回ご協力いただいたかた
三代秀石 堀口 徹さん2代目秀石に師事したのち、3代目を継承、「堀口切子」創業。江戸切子の新たな美の提唱者として、斬新なセンスが光る作品は国内外で高い人気を博している。
URL:
http://kiriko.biz/家庭画報×江戸切子スクエア皿のご購入方法
「スクエア皿」縦12×横12×厚さ1.2センチ4万円(税抜き、送料別)。購入をご希望のかたは、「堀口切子」のオンラインショップからご注文ください。また、日本の伝統工芸品を取り扱うセレクトショップ「日本百貨店おかちまち」の店頭でもご注文いただけます。
「堀口切子」オンラインショップ/
http://www.kiriko.shop/日本百貨店おかちまち/東京都台東区上野5-9-3
2k540 AKIOKA ARTISAN TEL:03(6803)0373
※ご注文が確定してから製作するため、商品のお届けにはお時間がかかります。また、商品は一つ一つ手作りのため、仕上がりが写真とは少々異なる場合があります。
『家庭画報』2017年7月号掲載
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。