「最終グループで滑る」ことを目標に掲げていた全日本選手権で、見事銀メダルに。「SP(ショートプログラム)はある程度滑れましたけれど、FS(フリースケーティング)はまだまだです」と語っていましたが、この難解な名プログラム(「Pale Green Ghosts」)の完成形をいつか見てみたいですね!撮影/坂本正行(世界文化社 写真部) ーー現役を引退された頃と比べて、いまの髙橋選手は特に何が変わったのでしょう?目力ですよね、やはり。目の勢いが違いますもの。現役引退をした頃は本当に辛そうで。でもこの4年間、彼自身がいろいろ試行錯誤したなかで、少しずつ取り戻していったんですよね。『LOTF』、『氷艶』の時は目が輝いていたと感じました。あとは、取材でブルーインパルスに乗った時ですね(笑)。
そして、体力は今が一番あるんじゃないですか。ダンスの効果もあると思いますが、筋トレに励んだおかげで基礎体力、馬力がアップしましたよね。前よりスピンのポジションもきれいになりましたし。アスリートって、モチベーションと体力が比例するんだと思うんです。膝はまだあまり良くないのでしょうけれど、ジャンプ練習を続けていても疲れた様子を見せませんし。若くなりましたよね、本当に。気力が充実しているんでしょうね。
ーー髙橋選手というスケーターは、日本の、そして世界のフィギュアスケート界にとってどのような存在だと思われますか?日本の男子フィギュアスケートの知名度を国内外であげた立役者だと思います。今でこそ、すごい人気ですが、その昔はフィギュアスケートといえば女子に注目が集まっていて、男子の演技時間帯になると観客が帰っていきましたから。大輔たちの世代が、みんなで今の素地を作り上げてきたんですよね。海外にもファンが多くて、いろいろなところで声をかけられてびっくりすることもしばしばあります。やはり稀有な魅力がある、神様に選ばれた人なんでしょうね。
ーー髙橋選手の今後が楽しみですね。そうですね。いろいろなことに縛られず、本当に毎日楽しそうに滑って練習しているのを見ると、「ああ、本当にスケートが好きなんだな」と、心から感じます。純粋にフィギュアスケートに向き合えているんですね。今までの試合でも好きな演技はたくさんありますが、その気持ちから生まれてくる、また新たな魅力を今の彼のスケートに感じています。現役引退を決める前の、あの辛かった時期があるから、第2現役期という夢のような、まさに奇跡のような時間が今、あるんですよね。もう少し足と体の状態が良くなって、怪我をする前に跳べていた4回転ジャンプがきれいに戻ってきた時が、彼の中でも大きな契機になるのかもしれません。5年後、10年後も今の目の輝きのまま、何に対してでもいいので真剣に取り組んでいる姿を見せてもらえたら嬉しいです。
現役復帰のお話を伺うにあたり、4年前の引退について改めてお尋ねする中で、時に涙をこらえつつのインタビューでしたが、無駄な時間、意味のない経験はありません。
会場の色を染め上げ、時間をも支配する魅力をさらに増幅させた髙橋選手が競技の世界に戻り、全日本選手権で準優勝を飾ったうえに、来季も現役の姿を見られることになったのですから。まずはこの1年、髙橋選手のスケーティングを満喫しましょう!
長光歌子(ながみつ・うたこ)関西大学アイススケート部コーチであり、髙橋選手の専任コーチ。髙橋選手が中学2年生の時から指導を始める。「大輔は特別な才能を持った稀有なスケーター。一番近くでその滑りを見られて役得です」と笑う。 小松庸子/Yoko Komatsu
フリー編集者・ライター
世界文化社在籍時は『家庭画報』読み物&特別テーマ班副編集長としてフィギュアスケート特集などを担当。フリー転身後もフィギュアスケートや将棋、俳優、体操などのジャンルで、人物アプローチの特集を企画、取材している。
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