そんなサヌイ織物さんは、博多織の織元の中でも少し特別な存在で、帯や着尺を一切制作していません。では、何を制作しているのかというと、劇場や公共施設などに飾られる大きなタペストリーや壁紙などの装飾品(福岡の主要施設のほとんどにサヌイ織物さんの作品が飾られているそう!)、ポーチにブックカバー、バッグ、お財布、ネクタイ、風呂敷などの小物類など。どうしてそのような形になったのでしょうか?
讃井さん「約50年前までは帯も作っていましたが、その頃は問屋主導の制作で織元は注文通り・指示通りに織るだけでいいという風潮が強かったようです。そんな状態に疑問を感じた、自分の父である二代目が今後は帯を作らないという決断をしました。その頃は帯が売れていた時代で売り上げの6割ほどを占めていたので、大胆な決断だと思います」
その大きな決断が、今のサヌイ織物さんの様々な挑戦につながっているんですね。
讃井さん「私が目指しているのは、ランドセルやバッグの中からさっと博多織が出てくるくらい身近になること。つまり博多織が“日用品”であってほしいと思っているんです。昔はきものを着る機会も多く、いわば日用品でした。でも、現代ではそうでありませんよね。であれば、現代に即した親しみやすく使いやすい身近なものとしての博多織を提案することで盛り上げていきたいのです」
男性も取り入れやすいネクタイ。プレゼントを選んでいる母娘の姿もありました。博多織工芸館では、讃井さんのそんな想いを裏付けるように、これまでの挑戦の軌跡を見ることができます。現代の生活に即するように開発された様々なグッズ、多くの企業とコラボレーションした商品、前例のない取り組みに果敢に挑んだ際の資料―。博多織を未来へと繋げていこうという意気込みのもとに取り組んでいることを感じました。
讃井さん「『革新なくして伝統なし』、なんです。終わってしまったらそれは『歴史』になってしまう。私たちは伝統をずっと先の未来まで繋げていきたいんです。」
E子「サヌイ織物さんでは、とても大きなものも織っているって伺ったけど、そうなると織機も大きいのかな?」
A子「さっき黒木織物さんの工場で見せていただいたものとどう違うんでしょうね?」
などとこそこそ(?)と話していた私たちの様子を察してくれた讃井さん。
讃井さん「では、次は工場を見てみませんか?」
なんと!サヌイ織物さんでは誰でも工場内を見学することができるそう。「博多織をより身近に」という想いをここでも感じながら、さっそく私たちも力強い打ち込み音が聞こえる工場へと向かいました。
工場内にはたくさんの織機が並んでいますが、どれも黒木織物さんで見せていただいたものより大きいものばかり。織機で織られているものを見ると、幅も様々です。
讃井さん「ぱっと見では似たように見えますが、織りたいもので織機は全く違うんですよ」
見惚れてしまうほど密で美しい経糸。こちらは織り上げたあと「ふくさ」に加工されるそうです。帯幅の何倍もある大きな生地が織られていく様子はダイナミック!織り上がった生地の検品作業をしている職人さん。ひとつひとつ丁寧に確認しています。