北区つかこうへい劇団にも1年半ほど所属していた。「つかさんには、本当にたくさんのことを教わりました」――成河さんのアイディアだったんですね。一歩進んだ形での上演になって、しゅうさんもきっと喜んでいる気がします。「そうですね。しゅうさんの企画力と人を巻き込んでいく行動力には、周りの人間も感化されますから。僕も種をもらったんだなと感じています。今の自分の年齢からしても、ブルース役のほうがいいように思うし、タイミング的にもよかったのかなと。実際、9年前はそれほど興味を持てなかったブルースという役の心情が、今はすごくわかるんです」
――具体的には、どういった心情でしょう?「空回りする正義感とか、目的を見失って感情的になって、自分が守っていたはずのものを放り投げてしまうところ。でもそれは決して悪意からくるものではない。社会的な常識や正義感を持っていたとしても、人って足元が揺らぎだすと、それぐらいすぐに自分のことがわからなくなってしまうんですよね。ブルース目線で改めて台本を読みながら、これは近頃“演劇は多様性だ!”なんて偉そうに言っている僕が、千葉さんに鼻で笑われるような関係性そのものだなあと感じています(笑)。自分にとっては“痛い”ことではあるけれど、今ブルースをやれてよかったなと」
――初演でいちばん印象に残っていることは何ですか?「“会話って、こういうふうにするんだ!”と実感したこと。僕にはそれまで、こういう濃密な会話劇を年上のベテランの方々と経験する機会があまりなかったんです。特に、ブルース役の千葉さんの会話劇としての包容力はすごいなあと思いました。ブルースは、クリストファーに対する受けの芝居が多い役なんですが、千葉さんのブルースは僕が何をやっても受けてくださるので、なんてやりやすいんだ!と思って。その後の演劇活動にも役に立つ色々なことを、本当にたくさん教えてもらいました」