青森ヒバの美しさに、パリのモダニティを薫らせて
2月――。柴田さんが製作した大小のかごが、河原さんのアトリエへ届きます。河原さんが悩んだのは、ウサギのモチーフをどのようにあしらうかということでした。「パリに行くと決め、初めてシャルル・ド・ゴール空港に着陸するとき、野ウサギがたくさん走っているのが機内から見えて。ああ、パリのウサギが迎えてくれていると感じたのです。それ以来、ウサギは私の創作活動の主題です」。
河原さんのアトリエには、自身の描いた作品がそこかしこに飾られています。なかでもひと際目をひくウサギは、河原さんにとって最も大切なモチーフ。試行錯誤を重ねた末に出した結論は「ヒバの木目はそのまま生かす」という引き算の美学でした。「例えば編み目の前面にウサギを描いたり焼きつけたりすることも考えたのですが、ここはあえてそのまま残したほうが素敵だなと思って。代わりにヒバの木材にウサギを彫り起こし、ビッグチャームを作りました。また、荷物が見えないよう、かごの内側に布袋を縫いつけています」。
「私はアーティストなので、感覚的にこっちのほうがいいなと思ったらどんどん作り方を変えてしまう。職人さんとは真逆のアプローチです。でも、相反するように見えても、柴田さんがどれくらいチャレンジしたか、どれくらい心を込めて編んだかが私にはわかる。使う人が喜んでくれるものを作りたい――想いは二人とも一緒です」
青森ヒバの手仕事の妙と、パリの感性が互いを引き立て合う――。世代も生きる場所も何もかもを飛び越え、ものづくりの本質に共鳴する二人が成しえたバッグ。作り手の想いが、唯一無二の作品に心温まる存在感を与えています。
青森ヒバの木材を使ってバッグチャームを作ることにした河原さん。ヒバの木とウサギの絵をデッサンして。彫刻刀でウサギを彫り起こしていきます。極細のレザーストラップを針で留めて。「ストラップが細くなることでぐっと軽やかな表情になりますね」と河原さん。大きいバッグのストラップは青森ヒバの木をイメージした茶色、小さいほうは青森のりんごをイメージした赤をセレクト。河原シンスケさん武蔵野美術大学卒業後、渡仏。1980年代より、パリを中心にアメリカや日本でアーティスト活動を開始。パレ・ド・トーキョーやサーチ・ギャラリー等、数々の展覧会での作品発表に加え、エルメスやルイ・ヴィトンなどのブランドとのコラボレーションでも知られる。