「一つ一つのことを、純粋に楽しめる人間でいたい」―妻夫木 聡
「初演の公演中から“またやりたいね”とみんなで話していたので、自分が出ていないシーンも含めて、すべてが楽しみです」と話す妻夫木 聡さん。大好評を博した初演のキャスト&スタッフで3年ぶりに甦る、舞台『キネマと恋人』に出演する。
昭和11年の日本の小さな架空の島を舞台に繰り広げられる本作品は、劇作家・演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)さんが、ウディ・アレン監督の映画『カイロの紫のバラ』にインスパイアされて書いた、ちょっとビターなロマンティックコメディ。
映画を唯一の生きがいに、幸せとはいえない結婚生活を送るハルコが、新作映画が半年遅れで上映される島の映画館で今日も映画を観ていると、映画の登場人物がスクリーンの中から突然話しかけてきて......というファンタジックな物語だ。
妻夫木さんが演じるのは、スクリーンから現実の世界へと抜け出し、ハルコを連れて街を探索し始める時代劇映画の脇役キャラクター・間坂寅蔵と、折しもシリーズ最新作の撮影で島にやってくる、寅蔵を演じる俳優・高木高助(たかすけ)の二役。
島で起きている騒動を知った高助は、なんとか寅蔵を見つけ出し、スクリーンの中に戻そうとするのだが......。
「台本がなかなかでき上がってこなかったので、初演のときは、どうなっていくのかなあと思いながら稽古をしていました。それぞれの役づくりも、KERAさんに、こういう感じですか?と聞きながらだったので、大変ではありましたね。最初は、優しくて純真な寅蔵は善、自己中心的な都会の青年・高助は悪というふうに捉えていたところがあったんですが、台本が徐々にでき上がって、作品が形になっていくうちに、寅蔵にもない純粋な部分が高助の中にあるのを感じるようになりました。寅蔵やハルコといったまっすぐな心を持った人に、高助もだんだん浄化されているんだろうなと思いましたね」
ちなみに、ハルコを明るくチャーミングに演じるのは緒川たまきさん、ハルコの妹で惚れっぽいミチル役を務めるのは、ともさかりえさん。妻夫木さんは、この姉妹二人の最後のシーンが大好きで、初演時は毎回、舞台袖から見ていたという。
初演(2016年11月~12月、シアタートラム)の舞台より。左は間坂寅蔵を演じる妻夫木さん、右はハルコ役の緒川たまきさん。撮影/御堂義乘「現実のほろ苦さと、それでも生きていくという切なさがたまらなくて、何度見ても泣けてくるんです。再演だとつい欲が出て、あれこれ考えて作戦を練ってしまいがちですが、カンパニーのみんなが愛しく思っている大切な作品。技術的な部分はしっかり詰めつつも、頭と心を柔らかくして、今回もその場で生まれてくるものを大事に演じたいと思います」