承天寺・神保至雲（じんぼしうん）住職。博多の伝統文化に対する深い愛情と知識を、にこやかに、そしてユーモアを交えながら話してくださいました。ご住職が首から掛けている 絡子（らくす）ももちろん博多織です。博多織を知り、その魅力にどっぷりとはまったことを率直にご住職に伝えた私たち。
神保住職「博多に来てよかった、博多織を知ってよかった、もっと着てみたいと思ってもらえたのはとても嬉しいですね。博多の伝統文化の素晴らしさに改めて光を当てたいと思っている中で、博多織はその伝道師としての役割を担えるものだと思っていますので」
今回の取材中に、帯やきものはもちろん、小物やファブリックなどでも博多織が大きな広がりを見せていることを目の当たりにしていた私たちは、住職の“伝道師”という表現に大きく頷いたのでした。
A子「では、ご住職の身の回りで博多織が増えてきたなと実感することはあるのでしょうか？」
神保住職「私の周りはもともと身に着けている人が多いですからね（笑）でも、例えば法要などでお見えになる檀家さんが全員そろって博多織を身に着けていることがたまにありまして、その姿が本当に素敵だなぁと見ています。しかし、実際はそういう方々を目にする機会は多くはなくて、むしろ博多織や献上柄を知らないという若い方が多いのが現実だと思います。なので、日常に博多織を取り入れてもらうために、もっともっと知ってもらうことが大切ですよね」
承天寺でももちろん博多織を活用。のれんに仕立てて、位置をずらすことで入ってもいい場所、欲しくない場所の目印にしているそう。E子「2018年度に博多織が777年を迎え、次の800年を目指していく中で、ご住職がポイントだと思う出来事はあったのでしょうか？」
神保住職「近年でいうと学校（※博多織デベロップメントカレッジ）ができたことですね。それによって若い担い手が増えてきました。そして、その若い担い手が、博多織に新たな風を吹き込んだと思います。例えば、学生たちがこれまでの職人さんたちでは使わんやろという色や柄で、商売を抜きにして自由に楽しく作るんですよ。伝統工芸士さんや博多織組合の方々が見たらびっくりするような(笑)。でも、何だか惹きつけられるという声はあったんですね。そうしたら、毎年承天寺でやっている博多織求評会の作品が最近、全体的に明るくなったんですよ。それは、織り手たちも若い学生たちに刺激を受けたからではないでしょうかね」
※博多織デベロップメントカレッジ：博多織工業組合が、国や福岡県、福岡市の協力のもと2006年4月に開校。人間国宝の小川規三郎学長のもと、2年間で博多織の技能を取得しながら、博多の文化なども学ぶ。神保住職が学生たちに講義をするなど、承天寺も協力を惜しまない。
承天寺に収蔵されている「博多織デベロップメントカレッジ」の学生さんによる最初の作品。入学年度別に分けられ、屏風に表装してありました。色や柄の入り方が変わるだけで、献上柄の表情も全く変わります。
ワクワクするような作品がたくさん！そして、これらの作品を説明して下さるご住職のまなざしがとても温かなものだったのが印象的でした。博多織の明るい未来を感じながら学生さんたち（今は職人さんですが）の作品を見ていると、ご住職がこんなお話をしてくださいました。
神保住職「博多織の帯は、自分の子供がお嫁に行くときは必ず持たせていたものなんです。独鈷（とっこ）は身を守るためのもの。華皿（はなざら）は法要時に花を撒くために使うためのもので先祖を大事にしなさい、孝行縞（こうこうじま）は嫁ぎ先の両親も大切にしなさい、そして親子縞（おやこじま）は子が生まれたらその子を大切に育てなさい、そういう意味が込められているんです。だから昔の人は献上柄を持っているんですよ。黒田長政が徳川家に献上したのも、徳川家の繁栄、徳川家の身を守るというしっかりした意味があったからこそだと思います。しかも帯は身体の芯、中心に巻きつけるもの。より一層想いの深さも感じますよね」
・博多織の献上柄の歴史＆文様を学んだ1日目の記事はこちら＞＞なんと素敵な物語でしょうか…！さらに深い意味や想いを知って、いっそう博多織に惹きつけられてしまいました。そんな私たちを見て、
神保住職「今回感じたことを最低10人には話してくださいね」
とにっこり。チャーミングな笑顔ととともに素敵なミッションをいただき、次なる目的地へと向かったのでした。
10人といわず、会う方すべてにお話ししたいと思います！
