お医者さまの取扱説明書 総合内科医の尾藤誠司先生に、患者と医師の良好コミュニケーション術を教わります。
記事一覧はこちら>> どんなに簡単な手術でも、体にメスが入ることの恐怖心は多少なりともつきまとうものです。うやむやを抱えたまま手術室に運ばれてしまうと、後で予想外の状況に戸惑うことにもなりかねません。不安や心配事を可能なかぎり解消するために、医師に確かめておきたい“あれこれ”を尾藤先生に伺いました。
尾藤誠司(びとう・せいじ)先生1965年、愛知県生まれ。岐阜大学医学部卒業後、国立長崎中央病院、国立東京第二病院(現・東京医療センター)、国立佐渡療養所に勤務。95年〜97年UCLAに留学し、臨床疫学を学び、医療と社会とのかかわりを研究。総合内科医として東京医療センターでの診療、研修医の教育、医師・看護師の臨床研究の支援、診療の質の向上を目指す事業にかかわる。著書に『「医師アタマ」との付き合い方』(中公新書ラクレ)、『医者の言うことは話半分でいい』(PHP)ほか。患者が要望を伝えると意外に融通の利くことも
手術にまつわる数々の不安材料は医師に確かめ、できるだけ解消してから手術に臨むことがストレスの軽減と早い回復につながります。もちろん病院や医師の方針に従わざるをえない部分も多いのですが、意外にフレキシブルで、患者の意思表示や相談次第で変更可能な事柄もあります。
その1つが、手術日。緊急でないかぎり、医師の提案する日から1〜2週間程度遅くなっても大して支障のないケースがほとんどです。直前の変更は手術室を空けてしまうことにもなり病院や医師にとって痛手。仕事や重要なイベントと重なりそうな場合は遠慮なく伝え、無理のない日程を設定しましょう。
また、腰痛など整形外科の手術の場合は、患者が何を到達目標とするかで手術の方法や規模が大きく変わることがあります。
「自転車で長距離を走れるまで回復したい人と、近所に買い物に行ければ十分という人では手術内容も大きく変わってきます。必要以上に負担の大きな手術を避けるためにも、ご自身がどこまでの治癒を目指すかを伝えることは大事です」(尾藤誠司先生)
最近は、小さな傷ですむ内視鏡手術が盛んになり、大きくおなかを切る従来の開腹手術と両方の選択肢があるケースが多くなっています。医師は病気の状態や患者の体力、医師自身の技術面などを考え合わせてより安全・確実な術式を提案するので、基本的には方針に従うのが無難だといえます。
しかし特に要望がある場合は、「内視鏡手術のオプションもあるでしょうか」などと尋ね、選択の余地があればそれぞれのメリット・デメリットをよく確認して決めるとよいでしょう。
傷あとや費用のことは患者のほうから聞いてみる
一方、患者にとっては大きな問題なのに医師からは何も説明がないことがあります。
「たとえば傷あと。胃がんの手術をする医師の関心はもっぱら胃に向き、皮膚はほとんど眼中にありません。何の意図も悪気もないのですが、傷あとの説明にまで考えが及ばない医師が多いのも事実。
どれくらいの傷がどこにどんな形で残るか、気になることは患者さんから納得いくまで質問しましょう」
明らかに大事なのに、お互いにスルーしがちなのが手術費用のこと。概算の金額を知っておくと心づもりができ、後で慌てずにすみます。が、尋ねる先は医師ではなく医療相談室か入院受付などが妥当でしょう。
「これは病院側からのお願いですが、手術前後にフルネームを繰り返し聞かれても、『何回いわせるの!』とイラっとせず、その都度お答えください。絶対に人を間違えないために必要な確認行為なのです。
もし『〇山△子さんですね』と聞かれても、『はい』だけでなく『はい、〇山△子です』と答えていただくことが、確実なミス防止につながります」