すべてを成立させる懐の深さが歌舞伎にはある
ちなみに本作品には日本のシーンはなく、船の上かロシアの場面しか出てこない。三谷さん曰く「“ロシアもの”という歌舞伎の新ジャンルになりますかね(笑)」。原作の時事ネタやギャグを省き、17人の漂流者全員にキャラクターづけをしたり、オリジナルの登場人物を加えたりしたため、漫画から離れている部分もあるが、「原作のファンが観てくださったら〝あ、このテイストはみなもと作品だな〟と感じられるものにはなっていると思います」。
また、光太夫たちが笑うことは生きることだと気づくエピソードや、極寒のシベリアを橇(そり)でひた走るシーンなど、「原作をひとひねりして、歌舞伎らしくしたところもある」という。
三谷:馬にすると2頭しか出せないというので、橇は10匹のシベリアンハスキーが引く犬橇にしました。これ、歌舞伎的じゃないですか? 僕にしてみたら、人が入った犬が出てくること自体、歌舞伎以外では考えられない。そういうところも含めて、いい意味で何でもありで、すべてを成立させてしまう懐の深さが、歌舞伎にはありますよね。
幸四郎:確かにそうですね。ただ犬橇はたぶん、歌舞伎史上初登場だと思うので、歌舞伎的かどうかはわからないです(笑)。一応確認すると、あの犬橇シーンは感動のシーンなんですよね? いろいろな意味で、お客さまの反応が楽しみです(笑)。
三重県鈴鹿市にある大黒屋光太夫記念館を、今年2月に幸四郎さんが訪問した際の写真。