成熟世代のマインドフルネス 第2回(全4回) イライラする、気分が滅入る、眠れない、節々が痛むなど成熟世代の女性は更年期によるゆらぎに悩まされます。こんなときのセルフケアに役立つのがマインドフルネスです。「今起きていることに気づき、あるがままにそれを認める」マインドフルネスのメソッドには、脳科学的な作用があり、慢性痛や不安症状の軽減などの効果が示されています。いつでもどこでも取り組め、心身の安定に役立つマインドフルネスを毎日の生活に取り入れてみませんか。
前回の記事はこちら>> マインドフルネスは、一つのことに意識を集中させて、安定した心の持ち方を学ぶ練習法です。住職で精神科医の川野泰周さんが禅の教えをベースに、心に響くマインドフルネス論を語ります。
臨済宗建長寺派林香寺住職/精神科・心療内科医/RESM新横浜 睡眠・呼吸メディカルケアクリニック 副院長
川野泰周さん気持ちの切り替えを学び、悩みに振り回されない心を持つ
マインドフルネスとは、“今、ここにあるただ一つのことに集中する心の状態”を意味します。呼吸や体の感覚に意識を注ぐ瞑想などのプログラムで医療現場や企業に取り入れられ、メンタルヘルスやストレスマネジメントなどに活用されています。
精神科医でもある林香寺住職の川野泰周さんは、マインドフルネスの手法を用いた診療や講習会を行うなど幅広く活躍しています。
うつや自律神経失調症、更年期特有のイライラや悩みを抱える多くの女性たちに、禅の教えを踏まえて「気づくこと」と「受け入れること」の大切さを伝えています。
「自分自身を俯瞰して今の悩みや苦しみ、考え方の癖に“気づく”。そしてよいか悪いかの判断を挟まずに、そういう自分を“受け入れる”。この“気づきと受容”の二段階は、禅にも通じるマインドフルネスの重要なプロセスです。
結果として悩みへの向き合い方が変わり、心の安定を図ることができるのです。このような心の持ちようを身につけるための練習法の一つが呼吸瞑想です」
「ありのままの呼吸を感じる。今、この瞬間だけを観みる」
頭の中を空っぽにして、ただ呼吸だけに集中し、ただそこにあるものだけに視点を置く。修行としての坐禅も、マインドフルネスの呼吸瞑想も基本は同じである。自分をケアする力を身につけ、悩みのとらえ方を変える
呼吸瞑想では、ふだん無意識に行っている呼吸にあえて意識を向け、鼻を出入りする空気に集中します。これが簡単そうでなかなか難しい。すぐに雑念が浮かんでしまいます。
「雑念に気づいたら集中に戻せばよいのです。雑念は集中に戻るチャンスです。雑念に気づいた自分をそのまま受け入れて、むしろ褒めてあげてください。
そしてまた雑念が浮かぶ、集中に戻す、を繰り返します。瞑想は自分を受け入れると同時に、気持ちの切り替え方を学ぶ方法です」
集中と切り替えは、体の不調に加え、家族関係や自分の存在価値に悩むことも多くなる更年期世代の女性にぜひ身につけてほしい習慣です。
悩みの解決に執着すればするほど、解決できない葛藤に苦しみます。悩む自分を受け入れて、とりあえず悩みは横に置き、気持ちを切り替えて今やるべきことに集中する。
悩みがまた現れても前ほど深刻に思わなくなり、やがて取るに足らないものになる――。悩み自体の大きさは同じでも、向き合い方、感じ方が変わることで相対的に小さくなるのです。
「マインドフルネスは、自分で自分をケアする手法でもあります。理不尽なことが起きても、頑張りが評価されなくても、過剰に落ち込まず、自分で立ち直る力が身につく。
マインドフルネスの目指すところは禅と同じで、単なる悩みの解決ではありません。何事にも振り回されない穏やかな生き方を学ぶことであり、それは一生の宝物になるはずです」