掃除も料理も、一つの動作に専心すれば、
日々の家事はマインドフルネス練習法
生活の中の“集中”で心を安定させ、穏やかな人になる
家族を第一に考え、周囲に気を配り、自分のことは後回し。そんな女性たちは「自分という存在は大切である」という“自己肯定感”を得にくく、結果、心もゆらぎやすくなっていると川野さんはいいます。
自分をケアせず他人に尽くした挙句の燃え尽き症候群や、苦しさにすら気がつけず、心より先に体が悲鳴をあげる自律神経失調症に悩む主婦が増えています。
「自己犠牲に基づく他者への貢献は長続きしません。自分を大切にして初めて他者に尽くすことができるのです。女性たちこそ、心の持ち方を学べるマインドフルネスを必要としています。
呼吸瞑想で呼吸を観察する力を養うと、自分自身の心を感受できるようになり、自然に自慈心(自分を慈しむ心)が育つからです」
とはいえ、何かと忙しい世の女性が呼吸瞑想を日課にするのは難しい。効率的な方法はないものでしょうか。
「料理や掃除などふだんの家事も心がけ次第で立派なマインドフルネス練習法になります。禅では“行住坐臥”つまり朝起きてから夜寝るまでの生活のすべてが修行なのです」
単調な動作の繰り返しに五感を研ぎ澄ませる
その心がけとは、目の前の一つの作業に気持ちを入り込ませること。五感を研ぎ澄ませ、丁寧に、全身全霊で取り組むのです。一つに集中し、それが終わったら気持ちを切り替えて次の一つに集中します。
そしてどの動きにも「おいしくいただけるように」「気持ちよく過ごせるように」と、自分のため、誰かのためを思う心を込めることが大事です。
キャベツのせん切り、玉ねぎ炒め、靴磨き、窓拭き、草取り……難しく考えずに行えて、達成が目に見える単調な繰り返し作業ほど集中しやすいといえます。
合間に、お茶を丁寧に淹れてゆっくり味わえば、優雅なマインドフルネスタイムになります。
このように意識して行う家事にはマインドフルネスの呼吸瞑想と同じ効果があります。集中と切り替えの習慣が、結果的に周囲に振り回されない精神の安定と自分を大切に思う心をもたらし、表情や話し方を穏やかに変えていきます。
「その穏やかさは、自分では気づかないうちに家族や周りの人を癒やしています。自分を大切に思える人は、自然に人にも優しくなれるからです」
川野泰周(かわの・たいしゅう)さん
1980年生まれ。慶應義塾大学医学部医学科卒業。精神科診療に従事した後、3年半の禅修行を経て2014年末より住職となる。
現在は寺務の傍ら、精神科診療や講演活動を通してマインドフルネスの普及と発展に力を注ぐ。著書に『人生がうまくいく人の自己肯定感』(三笠書房)ほか多数。
著書『人生がうまくいく人の自己肯定感』
撮影/鍋島徳恭 取材・文/浅原須美
「家庭画報」2019年7月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。