介護中に医師を上手に頼るケーススタディー
ケース(1)
足腰が弱まり、食欲も低下。父の寝たきり予防について医師に相談してよいものか
Aさんの父親(86歳)は要介護3。ベッドとトイレの往復はかろうじて自力で歩けるものの、足は上がらず歩幅も狭くなり、筋力の衰えは明らかです。
最近では食欲も落ちて体重が減り、つまずきやふらつきも多くなって、ベッドで寝て過ごす時間が増えてきました。
このままでは寝たきりになることが目に見えており、少しでも長く筋力を維持したいのですが、病気とはいえない全身の衰えに対して医師にできることがあるのか、それとも介護職の専門分野なのか、相談先に迷っています。
【患者の心得】
訪問診療を行うかかりつけ医が相談相手として最適医師も介護スタッフもそれぞれの立場からアドバイスを行うことができ、またその義務があります。
医師は検査や薬の処方など診断・治療以外にも、健康維持や寝たきり予防のための食事・運動・睡眠等に関するアドバイスを行います。
診療所の医師(かかりつけ医)であればさらに細かく、ライフスタイルや家族関係に踏み込んで相談に乗ることも自らの役目ととらえています。
かかりつけ医が訪問診療を行っていれば最適な相談相手になるでしょう。
家での生活を切り離して介護を語ることは不可能で、訪問診療の目的は患者さん本人と住環境の両方を診断することだからです。
ケース(2)
娘として、認知症の親にできるかぎりのことをしたい。医師にどう伝えたらよいか
Bさんは自宅で92歳の母親の介護をしています。3か月前に転倒して大腿骨頸部を骨折し、手術とリハビリで杖をついて歩けるまでに回復はしたものの、入院中に認知機能がすっかり落ちてしまいました。
物忘れが進み、状況が把握できなくなってきた母親ですが、Bさんの願いは無理に元気を取り戻すことではなく、体や気持ちに余計な負担をかけず、穏やかな気持ちで長く自宅で過ごしてもらうこと。
「そのためにできるかぎりのことをしてあげたい」との思いをかかりつけ医に伝え、何ができるかを相談しようと考えています。
【患者の心得】
「できるかぎりのこと」とは何か具体的に話さないとズレが生じる家族から「できるかぎりのことをしてあげたい」といわれると、医師の思考回路は問題解決の方向に傾き、回復と延命のために力を尽くそうと考えます。
つまり医師にとってその言葉は、検査をしたり薬を出すことを意味し、Bさんのイメージする「なるべく心身に負担をかけず、穏やかに静かに自宅で」との思いと一致しない可能性が大きいのです。
「できるかぎりのこと」は、患者さん、医師、介護スタッフなど立場によって解釈が異なる難しい言葉です。
Bさん自身が「何を望んでいるのか」をよく考えて、相手に具体的に伝えることが大事です。
ケース(3)
医師が認知症の薬に消極的だ
父親(87歳)の介護が大変になってきたCさん。
薬を試してみたいのですが、主治医は薬に消極的な考えのようです。
【患者の心得】
薬に頼らない対応法を聞くチャンス持ちかけにくい相談は「素人なので判断がつかないのですが」などの前置きを添えると抵抗がないでしょう。
認知症の薬の評価は医師によってさまざまです。結果的に処方されないとしても、その話題を出すことは薬に頼らない対応法や工夫についてアドバイスをもらえるきっかけにもなるので、意味のある相談だと思います。
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