作品が制作された環境や、暮らしぶりまでを体感する──山口蓬春記念館
企画展が行われている展示室では、作品を鑑賞。
蓬春が制作した日本画や愛蔵していたものが中心となっている収蔵品の中には、スケッチや小下図、小下絵といった本制作となる前の段階のものが多数残されているのも、この美術館の特徴です。
山口蓬春 《望郷 小下絵》 1953年 29.5×21.5センチ 紙本彩色 額装
山口蓬春記念館蔵戦後いち早く西洋近代絵画の作風を取り入れ、独自の世界をつくり出した“蓬春モダニズム”と称される作品の代表格。第9回日展に出品した作品の小下絵で、後輩だった東山魁夷へ新築祝いの品として贈ったもの。秋以降に展示予定。山口蓬春 《まり藻と花》 1955年 56×71センチ 紙本彩色 額装
山口蓬春記念館蔵まり藻、紫陽花、ガラス器、花器の丸が重なり合う、卓抜した感性を感じさせる作品。蓬春は、よく庭の花を古陶磁などに生けて描いていたという。フランス近代絵画の理知的な造形感覚や精神性を日本画によって表現した傑作の一つ。2019年6月15日〜7月26日に展示予定。画業の集大成ともいえる皇居新宮殿の杉戸絵《楓》のもととなった下絵や、制作過程がうかがわれる素描などに、青木さんも興味を引かれたご様子。さらに、展示されている日記にも目を留めます。
「日記のおおらかな文字や住まいの空間、庭に植えられた植物、見える風景といったすべてのものから、蓬春がどんな人だったのかが伝わってきます。作品をどんなふうに、どんな環境で描いていたのか。完成作品だけを鑑賞するのでは、味わえない面白さがありますね」と青木さん。
生涯にわたって果敢に新たな日本画を追求し続けた巨匠の背景を深く知る機会となったようです。
青木奈緖(あおき・なお)さん
曽祖父が幸田露伴、祖母が幸田文、母が青木 玉という作家一族の4代目。学習院大学大学院を修了。ウィーンに留学し、12年間ドイツで暮らす。帰国後、エッセイストとしてデビュー。『誰が袖わが袖』、『幸田家のことば』など著書多数。 Information
山口蓬春記念館
神奈川県三浦郡葉山町一色2320
- 2019年6月15日~9月23日には、静物画とともに、画中に描かれているコレクションの古陶磁なども鑑賞できる企画展『山口蓬春の「静物画」~庭園に咲く花々と古陶磁の魅力~』が開催される。
〔特集〕“アートの国・ニッポン”を楽しみつくす夏休み 心潤す緑陰の美術館へ
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撮影/鈴木一彦 構成・取材・文/鈴木博美 着付け/月川麻依子 ヘア&メイク/AKANE
「家庭画報」2019年7月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。