崔在銀さん〈右〉のプロジェクトに参加した中村桂子さん〈左〉。DMZ(非武装地帯)に生息する101種の絶滅危惧種の生物の名前を記した、崔さんの作品《To Call by Name》(2019年)の前で。吊るした小瓶の中で金時豆の種子が育つ。軍事目的で掘られたと思われるDMZ内のトンネルを利用して、植物の種子とその情報を保存するプランには、生態学研究所をはじめ世界中の研究者が協力する。自然国家の具体的姿である。
崔作品の静かに床の白磁に名前の記された種しゅと、そこから1つ選ばれて水の入ったガラス瓶に入れられた種子から生れ出す芽が生命の力を見せている。
日々変化し、いつか緑の葉、花、実を生むことを期待させながら。「No Borders Exist in Nature」。
宇宙飛行士たちは皆、地球には国境は見えなかったと言う。そこに敢えて国境をつくり、権力や武力を顕示するのが人間なのである。
私の専門は生命誌。地球という星に生きる生きものたちは皆38億年前に生れた小さな生命体を祖先とする仲間であり、人間もその1つであるという事実は「自然のルール」と重なり、プロジェクトの最初から応援を続けてきた。
「アリもスミレも人間も、みんな違ってみんな同じ」という語りで展覧会にも参加している。
会場は賑わい、若い人の姿もたくさん見られるのが嬉しい。
中村桂子(なかむら けいこ)
生命誌研究者、JT生命誌研究館館長、理学博士。『ひらく〔生命科学から生命誌へ〕(中村桂子コレクション・いのち愛づる生命誌) 』〈全8巻〉第1巻など著書多数。 『The Nature Rules 自然国家:Dreaming of Earth Project 』
表示価格はすべて税込みです。
取材・構成・文/白坂由里 撮影/川瀬一絵
『家庭画報』2019年8月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。