「土に親しみ、風と交わり、草木に遊ぶ。この地で暮らしていることのすべてが限りない心の豊かさをもたらしてくれます」と、姜尚中さん。家の裏の小さな畑は姜さん専用。土は、本やネットで調べて苦土肥料を撒き、少しアルカリ性になるように改良した。植えるのは主にきゅうり、かぼちゃ、なす、ミニトマトなどの夏野菜。無農薬で育てた野菜のおいしさは格別だと、苗の植えつけにも精が出る。 確かに今では戦前以上に軽井沢は、ミニ東京が夏の間引越してきたような風情がないわけではありません。
でも仕事柄、東京や九州に移動する機会の多い私にとって、それはむしろ逆にフットワークの良さになっています。
それでも、ちょっと大通りの脇道にそれ、森の道に入れば、そこは別天地、『羊の歌』の世界が再現されているのです。
夏、踊る木漏れ日に誘われるように森の道をそぞろ歩くと、心が癒やされていくのがわかります。また酷寒の季節、木々にへばりついた細雪が「冬の桜」のよう風に吹かれてひらひらと舞う光景に心もほっこりとした気持ちになります。
そして大通りに出れば、ここかしこにレストランやカフェ、小さなお店に至近距離で足を運べる、そうした場所が軽井沢なのです。
加藤さんが生きていれば、きっと俗っぽいと眉をしかめるかもしれませんが、ミニ東京のような都会っぽさと、自然の聖域のような空間が接近している点で軽井沢は際立っています。
軽井沢の良さ、それはそうした「あれもこれも」を兼ね備えていることです。「姜くん、君は欲張りだよ」と、加藤さんからお叱りを受けるかもしれませんが、軽井沢は私にとって終の棲家になっているのです。
撮影/坂本正行
『家庭画報』2019年8月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。