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名建築家・吉村順三が手掛けた軽井沢の山荘の魅力を作家・下重暁子さんが語る

2019.07.29

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ここからの景色を見た瞬間、この山荘に住みたいと思いました―下重暁子さん


愛宕山の麓の小高い地に建つ、下重暁子さんの別荘
「フェアービュー」と呼ばれた愛宕山の麓の小高い地に建つ。その名のとおり、かつてはこのベランダから軽井沢の駅舎も見えたという。明治時代に植えられた木々は今や大木となり、その梢から種々の鳥の鳴き声が響き渡る。


若い頃から軽井沢が好きで毎年のように訪れていた下重暁子さん。軽井沢で山荘を探していたときに巡り合ったのが旧軽井沢の愛宕山の麓にあるこの家でした。


外観を目にした第一印象は「素朴」であること。ところが中に足を踏み入れると、それまで見た山荘とは空気感が全く違い、いっぺんに魅了されてしまったといいます。

板張りの簡素なつくりでありながら優美な佇まい。さらにベランダに立ち、山裾に向かってなだらかに木立が広がる景観を目にし、思わず「買います」といってしまったのだそうです。

1985年に建てられた吉村順三さんの建築だと知ったのはその後のことでした。しかも吉村さんと親交のあった、日本でのクラシック音楽普及に尽力したアメリカ人音楽家、エロイーズ・カニングハムのために建てられた家だったのです。

日本建築とモダニズムの融合を図った吉村さんの建築は、その佇まいの美しさやおおらかさが好きで、軽井沢の吉村邸や脇田邸なども目にし、憧れのものでした。まさに運命の出会いといえます。

以来20年、夏ばかりでなく一年を通してこの家に通います。数年後には吉村さんの弟子であった建築家の中村好文さんに依頼して、冬季も快適に過ごせる「冬の家」を併設。今では2つの家を行き来する軽井沢での暮らしも定着しました。

軽井沢の自然に溶け込んだ美しさがこの家の魅力


下重暁子さんの別荘のリビングルーム

リビングルームの天井は高く、吹き抜けとなっている。正面の石造りの暖炉背面の細長いコンクリートは天井にまで至り、その趣は教会を彷彿させる。

長逗留するときもあれば、1日か2日で帰るときもあるという軽井沢での暮らし。住めば住むほど居心地よく好きになるというこの家で過ごしていると、心がおおらかになっていくのを感じるそうです。

「長い原稿を書くときは、気持ちの落ち着く軽井沢の家のほうがはかどります」という下重さん。机に向かう時間のほかはといえば、ぼおっとしているのがいちばん好きだといいます。

初夏であれば春蟬が森中に響かせるカエルか鳥かと聞き間違う音に耳を傾けたり、風が梢の上を通っていくざわめきを聴いたり、雨の匂いを楽しんだり、霧が光の中で輝いているのをぼんやり眺めたり、という具合。

「鳥は多いですよ。特にシジュウカラ、コガラ、ヤマガラなどカラ類が多いですね」。

ベランダから望む庭の中央には鳥の水場と餌場がしつらえてあり、ときにオオルリ、コルリ、キビタキなどが姿を見せることも。

「カモシカも来るし、クマも出るし、イノシシは山ほどいる」と笑います。

楽しみはほかにもあります。料理好きのご主人が地の素材で日々腕をふるってくれるのに加え、地元の行きつけのレストランや居酒屋にも足を運びます。

軽井沢でしか会えない人、夏しか会えない人に会える喜び。東京で会う人も、軽井沢で会うとより親しみを感じるというのも軽井沢の持つ力なのかもしれません。
撮影/阿部 浩 取材・文/松田純子 ヘア&メイク/AKANE

『家庭画報』2019年8月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。
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