心潤す緑陰の美術館へ 第8回(全10回)作品と向き合うことで感性を磨く、知的好奇心を満たす、あるいは心身をリフレッシュする……。目的はさまざまですが、いつ訪ねても「心潤す時間」をもたらしてくれるのが、美術館の第1の魅力です。夏休みシーズン。喧騒から離れた涼やかな美術館で心潤う休日を過ごしてみませんか。第1部はアートな遠足、第2部はアートな自由研究をテーマにお届けします。
前回の記事はこちら>> 第2部 深く知る楽しみ“アートな自由研究”
台東区立朝倉彫塑館[東京・谷中]
朝倉文夫(あさくら・ふみお)
1883(明治16)~1964(昭和39)年。大分県に11人きょうだいの5番目の子として生まれる。1948年には彫刻家として初めて文化勲章を受章。日本の西洋彫刻の基礎を築いた。趣味人としても知られ、東洋蘭の栽培は『東洋蘭の作り方』という著書を残すほど熱中した。近代日本彫刻の牽引者の哲学が随所に詰まった、特別な空間を訪ねて
明治、大正、昭和にわたり活躍した彫刻家、朝倉文夫。大分生まれの朝倉は、日本橋の麒麟像で知られる兄、渡辺長男(おさお)を頼って上京し、その影響で彫刻の世界に魅せられていきます。
東京美術学校(現・東京藝術大学)に入学したものの、西洋彫刻の技法は未だ確立されておらず、自ら研究を重ね彫刻技法を構築しました。
天井高8.5メートルにも及ぶアトリエでひときわ目を引くのは、左にある高さ378.5センチの《小村寿太郎像》。高さのある作品を櫓やぐらを組むことなく制作するため、アトリエには昇降機が設置された。朝倉文夫《時の流れ》1917年 高さ184センチ ブロンズ
朝倉が得意とするしなやかな体のフォルム、すべらかな肌を見事に表現した女性裸像。初期の代表作といわれている。朝倉文夫《たま(好日)》1930年 高さ45.5センチ ブロンズ
愛猫家だった朝倉が最も多く制作した動物モチーフの作品が猫。瞳は細く表現され、まぶしい光の中を今にも歩きだしそう。
そんな朝倉のアトリエ兼住居だったのが「台東区立朝倉彫塑館」。東京・谷中に1907年に建てられ、増改築を繰り返し現在の建物は1935年に完成しました。朝倉の強い思い入れが込められたこの建物のほとんどが公開されています。