平均寿命が40代前半だった明治時代、長寿を不審に思われぬよう名前を変えるだけでなく、記者、講談師、瀬戸物売り、蓄音機販売、骨董屋兼質屋、洋食屋と、宮川麟太郎は職業も変えてゆく。
「主人公がその時代に何者として生きたか。職業はその証拠にもなります。おもしろいのは文明開化後、自由民権運動とセットで入ったジャーナリズムの流れで始まった政治演説が、講談や落語と同じカテゴリーで扱われていたこと。
新聞がフェイクニュースを流したり、弾圧を受けて緘口令(かんこうれい)を敷くなど、上に忖度することは、当時も今も変わっていません」
諸事に首を突っ込みながら生きてきた主人公を通じて日本の近現代を振り返る作品を書きながら、島田さんは、東京の変化の速さにも気づいたという。
「欧米の都市とは比べるべくもなく、片時も同じ状況ではない東京の移り変わりの激しさはスクラップ&ビルドそのものだと、改めて認識しました」
『人類最年長』
島田雅彦 著/文藝春秋 1850円
酔っ払った若者集団に襲撃され、病院に搬送された初老の男。60代後半にしか見えないその男が看護師の染井佳乃に語るところによれば、自分は万延2(1861)年の生まれで......。159歳の男の人生を通じて日本の軌跡を描くクロニクル小説。 表示価格はすべて税抜きです。
取材・構成・文/塚田恭子 撮影/阿部稔哉
『家庭画報』2019年8月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。