満島ひかりさんはオーランドの恋人役で出演。姉弟の舞台共演は故・蜷川幸雄氏演出の『ハムレット』(2015年)以来だ。――ひかりさんは何と？「“まずは沖縄の方言に変換して読んでみて。そうすれば感じるものがたくさんあるから。その後、戯曲の言葉でやってみるといいよ”って。“沖縄訛りのジャン・コクトーだから、ジャン・黒糖だね”なんて冗談交じりで話していたら、気持ちも救われました。数日後に稽古場で同じシーンをやったら、見違えるように変わっていたみたいです。熊林さんが目を真ん丸にして“何が起きたんですか!? すぐに事務所に連絡します”と。それでミシェル役が決まりました」
――佐藤オリエさん、中嶋しゅうさん、麻実れいさん、中嶋朋子さんとの共演で絶賛された『おそるべき親たち』は、そんなふうにスタートしたんですね。「これ以上ないスタートを切ってしまいましたよね。しゅうさんには、“お前はとてつもなく幸せだけど、とてつもなく不幸かもしれない。いつかそれがわかる時が来るよ”とよく言われました。そのしゅうさんをはじめ、皆さんそれぞれの立場で僕を支えてくれて、芝居とか、舞台に立つとかいう以前に、人の思いや愛情や温もりをたくさんもらって、一気に救われた気がしました。初めて自分がピュアな一人の人間として、そこに立つことができ、生きている実感を存分に得ていく日々でした」
――芝居をして生きていこう、俳優としてやっていこう、と自覚したのはいつ頃ですか？「『おそるべき親たち』のときは、そんなこと考える余裕もなかったですね。切り替えもできないまま、どっぷり浸かって、家に帰ると生気を抜かれた人みたいになってました。そもそも当時の僕は、演技がどうとかいう以前に、今まで生きてきたものをすべてさらけ出すしかなかった。ただ、それを全力で出していい場所は劇場しかないかもしれない、自分がいる場所はここなのかもしれないと感じた瞬間は、何度もありましたね。蜷川(幸雄)さんをはじめ、エネルギッシュな時代を生きてきた大先輩達は、パワーを惜しみなく出す僕のことを面白がって、“抑えるな！”と言ってくれましたから。そういうひとつひとつの出会いと愛のある喝によって、今の僕がいます」
