研究者と患者・市民の対話からよりよい研究が生まれる
「人を対象とする研究」には、下図のようなものがあります。
人を対象とする研究の種類「対象患者、薬の用量・用法や組み合わせなどの選択が非常に専門的である臨床試験、また、専門家でさえ見通しが立たないような基礎研究のごく初期の段階で患者さんや市民の意見を聞くべきかどうかは判断が分かれるでしょう」と武藤さん。
一方で、「痛み、治療中・療養中の生活の質(QOL)といったテーマでは、立案段階からの参画が大きな意味を持ちます」。
例えば、若年(AYA世代)のがん患者の妊孕性に関する研究が海外で進んだのは、まさに患者の意見が反映されたからだそうです。
患者・市民参画の方法には段階があり(下図)、“パートナーとして働く”段階まで進むのには時間がかかりそうですが、
例えば、「患者さんへの調査票の項目や文章、数は適切か」「この計画では患者さんや家族の負担が大きくないか」といったやりとりがあるだけでも、よりよい研究の一助になると期待されます。
ただ、患者・市民であれば誰でも参画できるわけではなく、研究者が求める条件に合致し、研究に興味があり、守秘義務を守れることが必須条件です。
利益相反の有無を申告する必要もあり、「例えば、研究資金を提供する企業の社員やその家族であれば、患者であっても参画することはできないでしょう」。
ヘルスリサーチにおける「参画」の範囲Elliott Jim, Health Research Authority(HRA)Strategy for Public Involvement(National Health Service, 2013)、武藤さん訳を編集部で一部改編【A】公開講座、リーフレット、文書
【B】市民パネル、インタビュー、患者日誌
【C】フォーカスグループ、セミナー、患者との会合
【D】意思決定機構の一員、市民陪審、市民対話
【E】共創のためにプロジェクトの一部を担う
【1】「変革が必要な事項について、あなたがたに伝えたい」
【2】「患者・サービス利用者や家族介護者として、○○に関するあなたの経験はどのようなもの?」
【3】「この問題について、あなたがたと議論したい」
【4】「この問題について、あなたがたと一緒に取り組みたい」
【5】「あなたがたに我々のチームの一員になってほしい」
海外には、研究者と患者・市民のマッチングや、参画する患者・市民の育成を行っている国や研究機関がありますが、日本には現在、そのような仕組みはありません。
そのため今後、日本でどのような研究でどのように参画する患者や市民が募集されるかは未知数です。
日本で行われている「人を対象とする研究」のうち、AMEDが助成するものは一部です。それでもガイドブック作成といった、この取り組みは日本の患者・市民参画の大きな一歩。
「ある疾患の研究に関してはいつも○○さんがご意見番だと決まってしまうと、意見が偏ってしまいます。いつもフレッシュな意見が集まることが望ましいのです。
もしも公募や声かけがあったら、私には関係ないとか、患者会に入っていないからとか、あるいは入っているけれど代表でもないしなどと思わないで、研究開発に関心を持ち、情報収集してみてください」と武藤さんは語っています。