表現者としての役者スキルを一段上げた髙橋選手。台詞回しも安心して聞いていられました。前回の「氷艶 2017 破沙羅」では、氷上の舞台においてスケート靴を脱ぎ、日本舞踊からの「台輔さん」や、剣舞を思わせる立ち回りを見せてくれましたが、今回もそれを上回る盛り込みぶり。台詞に歌に、そして宙吊りまで。高いところは苦手だったはずですが……、本当に頑張りました。会場からの大歓声で乗り越えられたのでしょう。3日間6公演お疲れ様でした! ぜひまた、「氷艶」シリーズで、新たなフィギュアスケートの魅力を見せてほしいと思います。主演、光源氏を演じる髙橋大輔の覚悟をこの舞台に見た
そして、今回またしても想像の遥か上をいく進化を見せてくれた髙橋選手。普段は恥ずかしがり屋の髙橋選手が、藤壺宮や紫の上にグイグイ迫っている姿を見るのは初めこそ、そこはかとなくくすぐったい感じがしましたが、俳優陣に交じって立ち回りはするわ、台詞はよどみなく発するわ、しまいには生歌まで披露となっては、まさに圧巻の「大輔劇場」でした。
2014年10月に1度、現役を引退したのち、やるせなさ、挫折感、先の見えない不安など、心にも体にも深い傷を負いながら、心の向かう道を模索し続けた日々。一見、回り道のように見えて、全ての経験が一本の道につながっていました。
スケート靴を脱いで舞台に上がったダンスショー
「LOVE ON THE FLOOR(以下、LOTF)」。現役時代、透け感のある衣装の下には肌色の服を着込むことを譲らなかった髙橋選手が、2017年のLOTFの舞台では、上半身裸で登場し、筋肉の動きも含めて表現する覚悟を見せてくれました。
「人前で話すのは苦手だし、台詞なんて噛んでしまって絶対無理!」と、今までは言っていましたが、「氷艶2019」では台詞どころか、まさかの生歌まで一気にクリア(笑)。
もともと、艶のある魅力的な声の持ち主ではありますが、「NEWS ZERO」や五輪のキャスター経験によって、地声の通りや滑舌は飛躍的に良くなったように感じます。今まで地道に積み重ねてきた経験が糧となり、「氷艶2019」での演技に結実したのですね。
もちろん、現役に復帰したことも、この質の高いパフォーマンスに影響していると思います。試合に通用する体を作り直せたからこそ、切れ味鋭いスケーティングができるわけで、なおかつ、今回の舞台で吸収したすべてを現役スケーターとしての演技に反映できる……。
そして、現役スケーターでありながら、フィギュアスケートの新たな可能性を切り開く挑戦をしいることはとても意義深いものだと思います。
「現役を引退した後にスケーターが生きていける道は、現在では限られている。でも、才能溢れるスケーターが日本にはたくさんいるので、彼らの現役引退後の受け皿にもなりうるようなアイスショー専門のエンターテインメント集団、カンパニーをいつの日か設立したい」と、家庭画報2017年1月号「髙橋大輔 今、新たなる飛躍へ」でインタビューさせていただいたときに夢を語ってくれた髙橋選手。
歌舞伎や古典文学といった伝統文化と、チームラボに代表されるような現代の日本が誇る技術力を融合させて、フィギュアスケートが日本文化を世界に発信するツールになりえることを、「氷艶」で証明してくれました。
また、多くのスケーターたちのセカンドライフの助け、そして生きがいにもなる道を切り開いている点でも、一度引退し、32歳で復帰した点でも、日本フィギュアスケート界における偉大な先駆者であり、開拓者だといえます。試合会場や練習リンクで、若手スケーターたちが髙橋選手から受ける影響のどれほど大きいことか。
試合前のストレッチ、集中力の高め方、深みのある演技。髙橋選手が大会に出てくれるのは恐らく、長くてもあと数年のことと思われるので、いま、そのパフォーマンスを会場で目の当たりにできる奇跡をいかして、若手スケーター皆さんたちの更なる刺激、向上につながるよう願っています。
日本フィギュアスケーターたちのセカンドステージにまで思いを馳せさせてくれた「氷艶2019」。
「3日間で終わってしまうなんて、寂しすぎる!」と髙橋選手も叫んでいましたが、今後も続けるべき意義と価値のある氷艶シリーズ。
いつかまた、再会できる日が来ますように。そして、この舞台を経て、今シーズンの髙橋選手がどのような演技を見せてくれるのか。これからも、ますます目が離せません。
氷上音楽劇「氷艶 2019 ―月光かりの如く―」 公式HP:
https://hyoen.jp/