自然の光、息吹を作品に込めたアーティストの素顔
ブリュックとヴィルカラご夫妻。長女のマーリアさんが1983年頃撮影。ルート・ブリュック1916~99年。美術工芸中央学校を経てグラフィックアートの道に進むが、アラビア製陶所に美術部門を創設したクルト・エクホルムに招かれてセラミックアートの道へ。作風は絶えず変化したものの、一貫して彼女の眼を通した自然や日常の光景を表現し続けた。一方でテキスタイル作品も数多く残す。夫はフィンランドデザインの巨匠タピオ・ヴィルカラ(1915~85年)。一男一女をもうける。名窯・アラビア製陶所の美術部門に所属し、独自の技法による色彩豊かな陶板や、数多なる陶のピースを組み合わせたモニュメントを手がけたフィンランドを代表するセラミックアーティスト、ルート・ブリュック。
没後20年である本年、日本で初めての回顧展が開かれ、温かで詩情豊かな唯一無二の世界観は多くの人の心を摑んでいます。
「カラフルな色彩は年齢を重ねるにつれシンプルで余計なものがそぎ落とされた表現に。厳しい寒冷地ならではの精神性を感じます」と語る小林さんもかねてからブリュックに注目しており、彼女の孫ペトラ・ヴィルカラさんに会えることを心待ちにしていました。
ここエスポー近代美術館には、ブリュックと、彼女の夫でフィンランドを代表するプロダクトデザイナー、タピオ・ヴィルカラの膨大な数のコレクションがあり、その一部が常設展示されています。
「ようこそ」と笑顔で小林さんを迎えるペトラさん。
「ここは倉庫みたいでしょう?作品だけでなくスケッチや制作材料、資料なども含めてクリエイションの舞台裏も体感いただけるような空間にしています」と展示室へと案内します。
展示はブリュックとヴィルカラの作品や仕事を10年ごとに区切ってプレゼンテーションされており、「作品の変化、進化が手に取るようにわかりますね。人はそのステージごとに自由に変化していいのだ、とのメッセージを受け取っているような気がします」と小林さん。じっと作品に見入ります。
作品の修復作業室へ。糸の色見本一本一本にスチームをかけて洗浄中。こうした作業の様子を通常はガラス越しに公開している。テキスタイル作家としても充実した作品を残したブリュック。色とりどりの経糸と緯糸を繊細に組み合わせた代表作《セイタ》は暮らしを彩る布としても愛された。