東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会まで1年をきり、我らが応援団長、松岡修造さんは「東京2020オリンピック日本代表選手団公式応援団長」に任命されました。本誌連載の第14回目のゲストは、東京2020大会の聖火リレートーチを企画・デザインした吉岡徳仁さん。空間や家具などのデザインで国際的に高い評価を得ている吉岡さんが夢中になり、「公募が始まる前から作っていた」というトーチは、日本人の英知と技術、そして被災地への思いが詰まった傑作です。2本のトーチを前に熱いトークが繰り広げられました。
松岡さんはパラリンピック、吉岡さんはオリンピックの聖火リレートーチとともに。「光によって、いろいろな色に見えますね」と松岡さんが目を丸くしていうと、「それを意識して作りました」と嬉しそうに答えた吉岡さん。第14回
デザイナー 吉岡 徳仁さん
対談の間中、柔和な笑みを浮かべていた吉岡さんですが、語る言葉は情熱的。「今までにないものを」という強い思いが伝わりました。吉岡 徳仁さん TOKUJIN YOSHIOKA1967年佐賀県生まれ。倉俣史朗、三宅一生のもとでデザインを学び、2000年に吉岡徳仁デザイン事務所を設立。デザイン、建築、現代美術の領域において活動。自然をテーマにした詩的な作品で国際的な賞を多数受賞。作品はニューヨーク近代美術館など世界の主要な美術館に所蔵されている。2007年にはアメリカ『Newsweek』誌の「世界が尊敬する日本人100人」に選出された。東京2020大会の聖火リレートーチを企画・デザイン。採用されずとも作りたかったトーチ
松岡 来年3月にスタートする聖火リレーには、徳仁さんデザインのトーチが使われます。1万人もの人が手にするトーチを、どのように考えられたのですか。
吉岡 2015年に、復興支援で被災地の子どもたちと桜のお絵描きをしたことをきっかけに、「桜が開花するような聖火リレーができたら素晴らしいのでは」と思ったんです。そこから桜のトーチのイメージが浮かび、公募が始まる前に作りだしました。
松岡 え! 公募のアナウンスがされる前からですか。
吉岡 はい。頭の中にあるデザインのイメージを形にしたかったんです。採用されるかされないかよりも、それを形にすることが重要でした。
松岡 何がそうさせたんでしょう。
吉岡 どうなんでしょうね。ときどき、どうしても自分で作ってみたいと思うものが出てくるんです。すごく幸せなことだと思うんですけど。
松岡 モチーフの桜は日本人に最もなじみ深い花の1つですね。
吉岡 はい。桜をモチーフにすることで時を経ても古びることのない、普遍的なものができるのではという思いもありました。あと、桜は可愛くなってしまいがちですが、可愛さよりも知性を感じるようなデザインにしたかったということもありますね。素材に関しては、ごく初期のオリンピックで作られていたトーチのように、金属そのものの美しさが際立つものにしたくて、このようになりました。
松岡 主な素材のアルミニウムには、被災地の仮設住宅のアルミサッシも使われているそうですね。
吉岡 ちょうど役目を終えた仮設住宅がこれから解体されるという時期だったので、その1部を使用させていただくことができました。そして、「アルミ押出成形」という技法で、接ぎ目のない一体成形を実現したんです。
松岡 それですっきりして見えるんですね!