料理教室を続けて、半世紀近く。
立ちっぱなしのキッチンで体も頭もフル回転
「旬のものを偏りなく食べることが大事よ。健康で楽しい90代が待っているわよ」―鈴木さんキッチンの中の料理研究家、休まず動く
布巾に刺身を広げ、酢飯をのせて軽く絞ってひっくり返す。真ん中を少し窪ませわさびを添えれば、花寿司のでき上がり。
手を動かしながら鈴木登紀子さんは、「おだしをとってちょうだい。ラム肉を冷蔵庫から出して。取り皿を用意してね」とお弟子さんに矢継ぎ早に指示を飛ばします。かと思えば調理台から食器戸棚へ、冷蔵庫からコンロへと足早に移動――。
キッチンの鈴木さんは休むことを知らず、それが元気の秘訣であることは一目瞭然です。
「料理は体も頭も使うのよ。いちばん大事なのは段取り。何品もの料理の手順を同時に組み立て無駄なく見落としなく手際よく動けるのは……経験ね」
現役最高齢料理研究家の言葉には、有無をいわさぬ説得力があります。
料理教室で伝えたいのは、旬の大切さと思いやり
【ご飯は力のもと。母・千代さん直伝の花寿司は十八番】
まぐろと鯛の刺身の花寿司に、庭のツバキの葉を敷いて。力のつくご飯を“食べやすく、見栄えよく”と、料理上手な母が考案した一品。鈴木さんが生まれ育ったのは、八戸。料理上手な母・千代さんのそばで多くの時間を過ごしました。
青森特産・焼き干しのだしで作った汁物や煮物、旬の刺身と野菜、多種大量の漬物に酒の肴。家族のために愛情込めて料理をする母を手伝い、みんなで食卓を囲むうちに「作ることと食べることが大好きになっちゃった」といいます。
こうして人一倍丈夫になった鈴木さんは、なんと虫歯も入れ歯も一本もありません。
「偏りなく何でも食べてきたから50代も乗り切れたし、今も元気でいられるの。私がこれからも料理教室で伝えたいのは、旬の食材をいただける喜びと、相手を慮(おもんぱか)って作る優しさを忘れないこと。どちらも母が教えてくれたことなのよ」