『花緑ごのみ Vol.37』
「8月から、渋谷駅にも近い200席弱の小劇場で、新たに『青山らくご』という落語会が始まるんです。座布団一枚あれば、どこででもできるのが落語。定着したら嬉しいですね」と話す柳家花緑さん。
全国を飛び回る人気落語家の1人だ。2019年10月には、37回目を数える『花緑ごのみ』を開催。
前座も置かず、1人で数席を勤める独演会で、今回は古典落語の『佃祭』と『二番煎じ』を手の内に入れるべく、練り直す。
「今やりたいものを実験的にやらせていただく、いってみれば、発表会です。20代の頃は、噺を覚えてしゃべるだけで精いっぱいでしたけれども、しっかり嚙み砕いて消化して自分なりの工夫も入れながら、古典を自分の文言で演じたいと思います」
ちなみに『佃祭』は、昔、人にした親切が忘れた頃に返ってくる噺。沖縄の高校生が、お金を落として困っていた自分に、名前も告げず貸してくれた人を探してお金を返したというニュースを見て、やろうと思いついたという。
『二番煎じ』は冬の定番的な滑稽噺。夜回りの町人たちが、番小屋でこっそり鍋をつつき、酒を飲む仕草が五感をくすぐる。
「僕自身はお酒をまったく飲めないんですが、落語は“らしさ”で見せる“見立て”の芸。自分が体験していないことも、誰もがわかるような表現でいかにもそれらしく見せるというのが、難しくもあり、面白いところです。うまくやろうと思うと固くなるので、お客さまと一緒に楽しもうという気持ちで勤めます。どうぞ遊びにいらしてください」
一方で、最近は講演会に呼ばれることも多くなった花緑さん。
数年前に、自身に識字障害があることがわかり、さまざまな場所でその体験を語っている。
「どうりで子どもの頃から読み書きが極端に苦手だったわけですよね。そんな自分の苦労話や最悪な成績表が、研究や同様の悩みを持った人の助けになる日が来ようとは(笑)。これも自分に与えられた役割だと思って、まさに天職だと改めて感じている落語同様、続けていきたいなと思っています」
柳家花緑(やなぎや かろく)
1971年、東京都出身。87年に祖父・5代目柳家小さんに入門。22歳で真打に昇進。古典・新作落語のほか、洋装&現代語を用いた“同時代落語”にも取り組み、俳優などでも活躍中。
表示価格はすべて税込みです。
取材・構成・文/岡﨑 香 撮影/寺澤太郎
『家庭画報』2019年9月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。