清元節の家に生まれた柿澤さん。曽祖父は、その美声で戦前から活躍した清元志壽太夫、祖父は作曲にも優れた清元節三味線方の清元榮三郎。ともに人間国宝だ。――今回の舞台でシャーロック・ホームズの相棒ワトソンを演じるのは、佐藤二朗さん。シャーロックよりかなり年上の真面目な人物に設定されているそうですね。「シャーロックを常に見守ってくれる父親のような存在です。繊細で優しい二朗さんは、わりとすぐに動揺するタイプ。それを華麗にボケに変えながらどんどん面白くしていくのが福田(雄一)監督作品の二朗さんだったりするんですけど、今回はボケ倒すような役柄ではないし、台詞の量も多い。二朗さんは“ヤバいなあ”と言ってますが、子どもに対するような愛をもってシャーロックに接する、素敵なワトソンが見られると思います」
――サッカー少年だった柿澤さんが俳優を志したきっかけは、高校時代にミュージカル『ライオンキング』(劇団四季公演)を観たことだったとか。どういうところに魅了されたのでしょう?「歌舞伎は小さい頃から観ていたんですが(柿澤さんの祖父は清元節の三味線方で歌舞伎公演の立三味線を長年勤めていた)、それとはまた全然違っていたので、“こんな世界があるんだ!”と思って。そこからミュージカルに興味を持つようになりました」
――ご家族には猛反対されたとか?「はい、甘い世界じゃないからと。それでも貫いた当時のエネルギーは、我ながらすごいなと思います。まあ、若かったんでしょうけど。その後、大学1年生のときに劇団四季の研究所のオーディションに受かったことが、いちばんの転機です。自分でも不思議なんですよ。それが生まれて初めて受けたオーディションで、合格するとは思ってなかったし、サッカー漬けで芸能界にはまったく興味がなかった自分が、まさか今こうなっているとは(笑)」
――劇団四季を退団以降は、舞台を中心に幅広く活躍されています。緊張はするほうですか?「昔はめちゃめちゃしてました。でも、舞台の本番中にアキレス腱を切って、そこから1年弱くらい休むというか仕事ができなかった時期を経験してからは、芝居ではあんまり緊張しなくなりました」
――どんな心境の変化があったのでしょう?「やれることは150%やって、本番も一生懸命頑張って、もちろんウォーミングアップもクールダウンもしっかりやっていたのに、それでも怪我をするときはするんだなと思い知ったことが大きいですね。一度は、なんだこれは!? 報われないんだったら、もういいや。この仕事をやめよう……とまで考えたんですが、もともと自分には頑張りすぎちゃうところがあった。それをやめよう、結局、なるようにしかならないんだからと思うようになったら、自然と無駄な緊張もなくなりました。もちろん頑張んなきゃいけないんですけど、やりすぎたら何にもならない。無理なときは無理だと言うことも大事だなと、今は思ってます」